第12話 ……恥ずかしいから、こっち見ないで
「……んぅ」
大好きな声を耳にして、私は目覚めた。
視線を向けると、立野さんがこちらを見て目を瞑っている。
まだ寝てる感じかな。
ブランケットの中でもぞもぞ動いて立野さんに近づく。
すうすうと気持ちよさそうに立野さんは呼吸をしていた。
ちゃんと寝てくれたことが嬉しかった。
私のことを信頼してくれているように感じられるから。
でも昨日はほんとにヤバかった。
どう考えても、普通の女の子同士の距離感じゃなかった。
一緒のベッドに入って抱き合うなんて、まるでこいび——
「……っ」
立野さんが寝返りを打ったことに注意がそれた。
私に背を向けて、立野さんはブランケットを自分の方へ引き寄せる。
ブランケットで隙間ができるのが嫌だったから、私もブランケットの中に入った。
立野さんの背中にぴったり密着すると、触れている箇所が熱を帯びる。
行き場のない熱は胸に集まり、もう一度立野さんを抱きしめたい衝動を形作った。
あのときは夜だったからよかった。
お互い深夜テンションだったねって言えるし。
でも流石に今はマズい。
朝起きて抱きしめたいって、普通じゃないし。
そんなモヤモヤを抱えながら、立野さんと身体を密着させ続けた。
今の私の心臓のドキドキが、立野さんにも移ってくれないかなって思いながら。
「ふぁ……」
しばらくすると、立野さんが上半身を起こした。
なんとなく目を閉じて寝たふりをする。
ずっと起きて身体を密着させてたって思われたくないから。
「もう8時かぁ……」
聞こえるかどうか程度のボリュームで立野さんは呟いた。
私が起きないように気を使ってくれているのかもしれない。
それが嬉しくって、寝たふりを続ける。
「ふぅー……」
立野さんは静かにベッドから抜け出した。
起きようか悩んでいると、ブランケットが身体全体に触れる。
私にブランケットをかけてくれたのだと、少し遅れて理解した。
その後、立野さんは私の身体のぽんと触れてから部屋を出る。
心臓が落ち着いてから起きようと思いつつ、私は寝返りを打った。
*
「宮永さんおはよー」
「おはよー」
古典の単語集から視線を上げて応える。
部屋を出て十数分経ってから、宮永さんがやってきた。
「昨日はよく眠れた?」
「まあ、うん」
ぐっすり眠れたわけではないけど、間違ってはいない。
8時過ぎまで寝ることなんて最近はなかったし。
「朝ごはんどうする?」
「食パンがあるから、それをチンして食べよー」
頷いてから、古典の単語集を閉じる。
「朝食の準備は私がするから、立野さんは勉強してていいよ?」
「いや、流石に何か手伝うよ」
「何かできることはある?」と言って私は立ち上がった。
「あんまりないけど、飲み物とか注いでもらえたら助かるかも」
「オッケー」
冷蔵庫を開けて麦茶の入った容器を、そして食器棚からコップを2つ取り出した。
テーブルまで運んでコップを置き、麦茶を並々と注ぐ。
そのひとつを手に取り、麦茶を口に含んだ。
冷たい液体がするすると喉を通っていく。
「他にすることある?」
「んーないかな」
「もうすぐできるから待ってて」と言われたので、私は椅子に腰を下ろした。
手持無沙汰だったので、朝食ができるまでに3回も麦茶に口を付けた。
*
「用意とか済ませたらもう帰る?」
デジタル時計に視線を向けながら宮永さんは尋ねてきた。
朝食を済ませて顔を洗ってから、再びリビングで話をしている。
ちゃんとメイクをしているからか、昨日の夜よりも心が落ち着いていた。
いつもの自分に戻ったような感覚があるからだと思う。
昨日のベッドに入ってからのことは、何となく話題に上がらなかった。
私も宮永さんも、その話題になりそうな話を避けているっていうか。
現在時刻は10時30分、そろそろ帰ってもいい時間帯だ。
「ちょっと勉強してから帰ろうかな」
なんとなく、もうちょっとだけ宮永さんと一緒にいたかった。
「じゃあ30分だけする?」
「そうだね」
勉強という都合の良い理由を持ち出した。
受験生だから受験勉強をするのは当然のこと。
ソファから立ち上がって、テーブルに移動する。
そこからぬるっと勉強会を開始した。
わからないところがあったら、相手に聞いて教えてもらう。
もしどっちともわからなかったら、スマホで調べて一緒に理解する。
そういう普通の勉強がとっても楽しかった。
*
「途中まで一緒について行っていい?」
玄関から出ようとしたとき、宮永さんが口を開いた。
「もちろん」
「ちょっとだけ待ってて」
一瞬だけリビングに戻り、スマホを持って宮永さんは戻ってきた。
「じゃあ行こっか」
その言葉を合図に私は玄関の扉を開くと、すぐに強い日差しが差し込んできた。
「日焼け止め塗ってから行こう?」
「私はもう塗ったよ」
「ごめん、じゃあちょっと待ってて」
宮永さんはパタパタと洗面台に向かって行った。
まだ時間がかかりそうなので、玄関の扉を閉める。
さっきまでガンガン入ってきた日差しがシャットアウトされた。
鏡に反射する宮永さんをなんとなく眺めてみる。
おでこと鼻、頬にクリームをつけて、それを薄くのばしていた。
そういう風に付けるんだなーと感心していると、鏡越しに目が合ってしまった。
「……恥ずかしいから、こっち見ないで」
そう呟いて、すぐに視線を外す。
髪を触って気持ちを落ち着かせていると、宮永さんがこちらにやってきた。
「ごめん、待たせちゃって」
「いいよいいよ」
さっきのはなかったことにして、私たちは外に出た。
「立野さんの家ってどこらへん?」
「だいたい20分くらい離れたところだね」
「そうなんだ」
日陰を選んで歩きながら、私たちは会話を続ける。
「いつか立野さんの家に行ってもいい?」
日差しを手で遮りながら、宮永さんはさらりと口にした。
「大丈夫だけど、今回はちゃんと勉強できた?」
「もちろん!」
それを聞いて、心臓がどくんと跳ねる。
ハグをしたことが、肯定されたように感じたから。
「じゃあ、またいつかしようか」
「うん」
頷いてから、宮永さんは私の腕に触れた。




