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生け簀の国のジン   転生したら幼馴染にボス耐性があったんだが  作者: 長月未至


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9/14

顔合わせ

西日がデスクを射している。木で出来た天板はニスかなにか塗られてるのか照らつき、その向こう側で女が慣れた様子でペンを走らせている。迷いなく動き、綺麗な文字が書かれていく。オレンジに染まった手は、存外細く薄く


視界の端に映るのは、剥製。虎っぽい頭が飾られている。黒と茶色の縞模。口から手から肘ぐらいの牙が生えている。


「それ、自分でヤったのか?」

「じゃないと示しがつかない。」


俺がやったら、人間か。お前も蝋人形にしてやろうかってな。


「邪魔だけど、らしいでしょ。」

「社長室っぽくて?」

「私が社長よ。」

「おめでとさん。」

「どうも。」


1回死んだのによくやる。







ジンが渡してきた紙束は、うにょうにょした文章がなんかの書式通りに並べられている。


「読める?」

「ああ。田舎で仕込まれたからな。」


あいつに習ったのと大して変わらん。


「どんな辺鄙ところでも同じ言葉習うのよ。」

「便利なもんだ。」


以下甲として、以下乙としてみたいなのが文にある。懐かしいな。


「正社員なのか?」

「好待遇、でしょ。」

「全くだ。でも出来高とか歩合制ってイメージあるんだが。」

「大物取れたら報奨会出すけど、それくらいね。」

「へえ。」

「需要と動物資源が莫大だから、運用が安定さえすればどうとでもなるわ。」


ダンジョンのモンスターが尽きないのは当たり前だしな。


「需要って?」

「軍よ。ここの皮革は鎧として有用なの。」

「鉄じゃないんだな。」


プレートアーマーとか、定番なのに。


「前線でもほとんど見ない。」

「燃費悪くなりそうだしな。」






「月給が金貨30枚、これってつまり何をいくら買えるんだ?」

「パン9800個分。毎日飲む打つ買うで、やっと使い切れるぐらい。」

「パンってずっと同じ価格なんだよな?」


広場のおばちゃんも言ってたな。昨日も明日も同じ値段だって。


「この街だけじゃなくて国全体でそう決まってる。」

「良い国だ。」

「食料の供給という観点で言えば、そうね。でも」

「でも?」

「就業することで、始めて居住権が認められる。」

「働かないと?」

「徴兵。人食い豚が国中に巣食っているわ。」


それ喩えになってないんだよな。







「諸々了解したぜ。」

「なら、これにサインして。」

「おっと印鑑持ってないや。」

「サインだけで大丈夫って言えばいい?」

「そうさ。朱肉だってないしな。」

「血判でもいいのに。」

「勘弁してくれ。」


余さず吸われてそうな気もするからな。心臓は元気に動いているから大丈夫か?  なんにせよケアルでダメージ入りそうだ。


「古い書き方ね。」

「練習したんだぜ。」

「いいわ、ようこそ昇陽商会へ。」












油や煤ですっかり汚れた天井。そこから吊り下げられたランプが煙の中で輝く。薄切りになった肉が、スパイスとタレにたっぷりと和えられて、山と積まれている。隣には同じく山盛りにされたパン。こっちも焼きたてなのか、小麦の香りがふんわりと漂っている。

厳ついおっさんどもが居並んで、隣りの女に視線を向けている。



パチパチと油が弾ける音が響く。


「あんた達、今日も無事に稼いできたようね。」


当然だろっていう空気が漂う。

満足そうに頷き


「さて、拾ってきた新入りを紹介するわ。ムジスよ。」


促されたので


「落としものこと、ムジスだ。拾ってもらった恩は返すぜ、特技はぶっ殺すこと、誰かぶっ殺したくなったら頼んでもらっていいぜ。」

「吠えたな若造! 」


毛むくじゃらのおっさんが怒鳴る。

暴力売り物にしてる奴らにこう言えば、そうなるよな。


「余興だ、表出ろよおっさん。」

「バカ言え、すぐのしてやる。」


どうせ後で角付き合わせるんだ。スキップだ、スキップ。

横を見ると止めない。


「俺も混ぜろよ。」


傷だらけのおっさんが、おまけについてくる。俺というより最初のおっさんに突っかかりたい風だな。周りのおっさんねえちゃんも2つに別れていて、牽制したりからかったり。派閥があるわけね。それで喧嘩売っても今は止めない、と。











いつものように剣を引き抜く。

おっちゃん1号は鉈のような分厚い刀身をした獲物だ。ぶっ叩く用だな。2号は長い柄に斧と穂先がついている。ハルバードってやつか。


「はん、まとめてきな。譲ってやんよ。」


また挑発してやると


「抜かせ。」


ガキ相手なんだからノるしかないよな。

目前に迫るおっさん。剣を下に置いて。振り上げて、胴か?  脚か? どっちでもいいか

剣を被せ、ズラして腹に  おっさん2号が合わせるように横から斬り払おうとしてくる。どたまぶっ叩こうって? さっさと決めようというのは嫌いじゃないぜ。

一歩前へ、ついでに剣の持ち手を蹴りつけ、間合いの内側に、柄が振り切られる前に


「そこまで。」


剣が落ちる音と共に声が響く。もう刃先はおっちゃん2号の首。

周りの視線は、驚き、不愉快、慄き。














真夜中でも、晴れたように向こうまで見える。電灯があるわけでもないのに。こんなカラダになって残念なのは、真っ暗闇ってのがなくなっちまったことだな。明るい木の下を抜けると



「おかえりなさい。」


星でも見上げて横になっていたのが、起き上がるなり、慕わしげにそう言う。

森の中で、ポツンと開いた場所に白いテントが張られている。新居っていうと馬鹿馬鹿しいが、まあドキドキはするかもしれない。首が疼くし。


「ご飯にする?」

「さっき少し食って来たんだ。」

「いいわ、散歩しましょう。」


手でも取ってやればそれっぽいか。


「お手をどうぞ、お嬢様。」

「ありがとう、ふふっ紳士なのね。」


これは分かるのか?  知らなくても余裕の反応を返してきそうだな。

すっと立ち上がらせる。




木の根を避けて進む。慣れた硬さ、似たような木、どこかで嗅いだような花の香り。いつか肩で切ったようなひんやり湿った空気。


「前と……似たようなとこだな。」

「ええ、遠くに住むことになっても、故郷は想うものでしょう?」

「そうだな。」


見上げれば、木々の切れ間から大きなお月さまと、瞬く星々が覗く。


「でも、違う空だ。」


いつか見上げた星空とは配置が違う。なんなら月の模様が違う。上の空は海老みたいだが、下の空は誰かの横顔だ。


「月の周りに首飾りがあるのよ。」

「ホントだ。」


一際強く輝く星が2、4、6、8つ。月を丸く飾っている。北斗七星みたいなの、どこでもあるんだな。



「地の下に異なる世界がある。」

「地獄とか浄土とか。」

「かつて、それを語る人々がいたそうよ。」

「今は?」

「地上からいなくなってしまった。」

「みんなそっちに行ったのか?」

「私達の手で、ね。」


こわいこわい。






甘ったるい香りが肺まで満たしてくる。月明かりの下で、青白く花びらが輝く。なだらかなに丘がうねり、白い絨毯が向こうまで続いている。


「花冠作ってあげる。」

「そりゃ嬉しい。」


とてとて駆け

こてんと座りこんで来るように座りこむ。




さくさくと編みこまれて


「はい。」

「ありがとよ。」


授けられる


「じゃあ私の分、作って。」

「ええ」

「見てたでしょう? 教えてあげるから。」

「へいへい。」


子どもっぽく笑って促してくる。

しょうがないから俺も作って


「それをね」


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