就活
林檎を軽く投げれば、抜けるような青い空にポツンと赤い点が浮かぶ。
頭の上に来たら、剣を抜き
底から、瑞々しい繊維を断ち切きる。
もう一度投げ
剣を納めると
掌に、4分割された実が落ちる。
1つ摘めば
おいしい。
斬鉄剣ごっこ。あんまり面白いもんでもなかったな。次は
「あんた、なにやってるの?」
「芸。」
話しかけて来たのは、女だ。背の高い––俺がまだ小さいのもあるが––周りのあんちゃんよりも頭1つは違う。そいつが鋭い目つきでこっちを値踏みしてくる。よく磨かれたブーツ。パリッとしてるズボン。ベルトもコートの留め具も洒落っ気がある。腰には得物をぶら下げている。肩にかからない程度の茶髪。隙なんて見せないけれど、それでもオシャレを楽しみたい、ってか。
「おひねり投げればいいわけ?」
「仕事くれ。」
「直裁ね。もっと口説いたら。」
「そこなお方、お腰のものに加えて、力だけが取り柄の田舎者はご入用ではないかな?」
「60点。」
「手厳しい。」
「あんた名前は?」
「ムジスってんだ。」
「ジンよ。」
「そいつは懐かしい響きだな。東の島国の、男の名前じゃないかい?」
目を合わせる。鋭かった目つきが少し和らいでいる。
「春には桜舞い散る国の、名前よ。いいわ。来なさい。」
「助かる。」
ホントに釣れた。ハンハンって言えばよかったか、こいつに通じるか? 怪しいな。
「驚かないのかよ。転生なんてさ。」
「私は私だけに奇跡が降りかかるとは信じていない。」
ピシャリと、一本筋通った声が鳴り響く。
「結構なお言葉だ。」
「あんたは?」
「おいおい、お釈迦様の有難い教えを知らないのか。」
「輪廻転生?」
「そうさ。」
「あんたいくつ?」
「とっくり着たおっさんだってドハマりしてただろ。」
「よく分かったわ。」
裏通りを行く。この辺りは昨日と違って生活感がある。洗濯物があちこちに。煮炊きの音と香りもする。夜飯でも作っているのか。うちの方では使ってないハーブの香りが漂う。この辺、魚食べてるといいな。ガキの時から1回も食ってないし。
「あんた大学入った?」
「一応、な。」
こういう会話、またやるはめになるとはな。
「ならいい。」
沈黙。どう使うか、算段立てているのだろう。もしくは違うことを。
鞘に細かい傷、剥げ。柄に握り締めた跡。腰にぶら下げた得物には汗水染みこんだ風情がある。
「仕事、なんだと思う?」
「傭兵。」
「間違ってはない。」
「ヒントくれ。」
昨日答えは聞いたんだがね。
「あんたの身につけてるもの。よく見てみなさい。」
隣にいる奴とそう変わらない。さすがに年季は違うが。卸したてのブーツはやっと履き慣れたぐらい。
外套だって、昨日のと同じくらい確りしている。
「布織ってる?」
「この手が、そう見える?」
態々手袋を取って見せるのは、白い手。豆だらけで皮の分厚そうな
「綺麗だ。働きものの綺麗な手だな。」
爺扱いするなって言い返されたら仲良くなれそうだが。
「まだ口説いてんの。もういいわ。」
「ホントさ。」
「はん。」
無理そうだな。仕事ができる奴だということを期待しよう。
「毛皮取り、猟師よ。」
「熊とか?」
「ここにはいない。いても採算取れるか、1品物になるから、難しい。」
「へえ。」
あいつが毛革に卸されるってことはなさそうだな。仲間がいないってことは、嫁さん見つけてやった方がいいのか。あれにも。
「その得物、使いこんでそうだな。」
「商売道具なら当然よ」
「それでスパっと」
「上手くいけば、そう。」
「鉄砲、使わないよな。」
使っても弓、それも目に見える距離で。いつだかのおっちゃんもそう使ってた。
「コストがあまりに高い。それに遠距離で殺すと強くなれない。つまり投資に値しない。」
「ああ。」
「血を浴び、喰らえば強くなる。呪術的ね。」
ゲームだよな。
「それが俺達の生きる世界さ。」
「度し難い。もっと度し難いのは」
向こうにはもう関所だ。昨日のおっちゃんとは違う人が立っている。場所も違う。出入り口がいくつもある。当然か。
ジンが取り出したのは、昨日も見た紙だ。俺も
「それを……持ってる」
「そうさ。」
「とんだ田舎ものね。早く言って。」
「悪かったよ。これそんな価値あるのか?」
「とても! 金さえ積めばいいものではない。」
「そうかい。」
「どうやって手に入れたの?」
「退職金代わりに、な。」
気持ちの良い風が吹き付ける。さくさくと音を立てて草が潰れる。眩しい日差しは本物。このお空はいったいどこのお空なのか。
「で、何しろって?」
「売り文句を証明なさい。その剣、飾りではないのでしょう?」
「了解、どいつをぶっ殺せばいい?」
「少し待って。」
「ああ。」
待てば来る? 手配が早いな。
羽音が聞こえてくる。剣を抜く。
「あれを。」
でかっ、虫かよ。
いかつい角向けたゴキブリみたいなのが、かっ飛んでくる。
とはいえ真っ直ぐで速いだけ。
ぐんぐん突っ込んできて、視界を圧迫してくる。
晴れ空の下で黒黒と照り返す黒いガワ、角なんて犀みたいにがっしりして分厚い。簡単に折れそうにはない。
黒黒とした目ん玉がすぐそこに。どこ見ているか分からん目だ。こいつも前世人間だったりするのか。俺もモンスターだったりするんだから。 考えたって仕方ないか。
一歩引き
頭と胴の間に刃を滑りこせ
首を断つ。
勢いそのまま滑らかに地べたまで落ちていく。跡に剥げた土を残して。
頭を砕こうと、振り上げ
「止まって。」
「いいのか、化け物ってのは首切ったところで死なないぜ。」
「これには十分よ。」
「そいつは知らなかった。」
「どんな田舎から来たの?」
「修行と称して、毎日おっかないのと戦ってたもんで。」
「なら、その度胸も納得ね。」
ジンが、努めて平然とそう言う。




