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生け簀の国のジン   転生したら幼馴染にボス耐性があったんだが  作者: 長月未至


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8/14

就活

林檎を軽く投げれば、抜けるような青い空にポツンと赤い点が浮かぶ。

頭の上に来たら、剣を抜き

底から、瑞々しい繊維を断ち切きる。

もう一度投げ


剣を納めると

掌に、4分割された実が落ちる。

1つ摘めば

おいしい。

斬鉄剣ごっこ。あんまり面白いもんでもなかったな。次は


「あんた、なにやってるの?」

「芸。」


話しかけて来たのは、女だ。背の高い––俺がまだ小さいのもあるが––周りのあんちゃんよりも頭1つは違う。そいつが鋭い目つきでこっちを値踏みしてくる。よく磨かれたブーツ。パリッとしてるズボン。ベルトもコートの留め具も洒落っ気がある。腰には得物をぶら下げている。肩にかからない程度の茶髪。隙なんて見せないけれど、それでもオシャレを楽しみたい、ってか。


「おひねり投げればいいわけ?」

「仕事くれ。」

「直裁ね。もっと口説いたら。」

「そこなお方、お腰のものに加えて、力だけが取り柄の田舎者はご入用ではないかな?」

「60点。」

「手厳しい。」


「あんた名前は?」

「ムジスってんだ。」

「ジンよ。」

「そいつは懐かしい響きだな。東の島国の、男の名前じゃないかい?」


目を合わせる。鋭かった目つきが少し和らいでいる。


「春には桜舞い散る国の、名前よ。いいわ。来なさい。」

「助かる。」


ホントに釣れた。ハンハンって言えばよかったか、こいつに通じるか? 怪しいな。


「驚かないのかよ。転生なんてさ。」

「私は私だけに奇跡が降りかかるとは信じていない。」


ピシャリと、一本筋通った声が鳴り響く。


「結構なお言葉だ。」

「あんたは?」

「おいおい、お釈迦様の有難い教えを知らないのか。」

「輪廻転生?」

「そうさ。」

「あんたいくつ?」

「とっくり着たおっさんだってドハマりしてただろ。」

「よく分かったわ。」









裏通りを行く。この辺りは昨日と違って生活感がある。洗濯物があちこちに。煮炊きの音と香りもする。夜飯でも作っているのか。うちの方では使ってないハーブの香りが漂う。この辺、魚食べてるといいな。ガキの時から1回も食ってないし。


「あんた大学入った?」

「一応、な。」


こういう会話、またやるはめになるとはな。


「ならいい。」




沈黙。どう使うか、算段立てているのだろう。もしくは違うことを。

鞘に細かい傷、剥げ。柄に握り締めた跡。腰にぶら下げた得物には汗水染みこんだ風情がある。


「仕事、なんだと思う?」

「傭兵。」

「間違ってはない。」

「ヒントくれ。」


昨日答えは聞いたんだがね。


「あんたの身につけてるもの。よく見てみなさい。」


隣にいる奴とそう変わらない。さすがに年季は違うが。卸したてのブーツはやっと履き慣れたぐらい。

外套だって、昨日のと同じくらい確りしている。


「布織ってる?」

「この手が、そう見える?」


態々手袋を取って見せるのは、白い手。豆だらけで皮の分厚そうな


「綺麗だ。働きものの綺麗な手だな。」


爺扱いするなって言い返されたら仲良くなれそうだが。


「まだ口説いてんの。もういいわ。」

「ホントさ。」

「はん。」


無理そうだな。仕事ができる奴だということを期待しよう。


「毛皮取り、猟師よ。」

「熊とか?」

「ここにはいない。いても採算取れるか、1品物になるから、難しい。」

「へえ。」


あいつが毛革に卸されるってことはなさそうだな。仲間がいないってことは、嫁さん見つけてやった方がいいのか。あれにも。


「その得物、使いこんでそうだな。」

「商売道具なら当然よ」

「それでスパっと」

「上手くいけば、そう。」

「鉄砲、使わないよな。」


使っても弓、それも目に見える距離で。いつだかのおっちゃんもそう使ってた。


「コストがあまりに高い。それに遠距離で殺すと強くなれない。つまり投資に値しない。」

「ああ。」

「血を浴び、喰らえば強くなる。呪術的ね。」


ゲームだよな。


「それが俺達の生きる世界さ。」

「度し難い。もっと度し難いのは」


向こうにはもう関所だ。昨日のおっちゃんとは違う人が立っている。場所も違う。出入り口がいくつもある。当然か。

ジンが取り出したのは、昨日も見た紙だ。俺も


「それを……持ってる」

「そうさ。」

「とんだ田舎ものね。早く言って。」

「悪かったよ。これそんな価値あるのか?」

「とても!  金さえ積めばいいものではない。」

「そうかい。」

「どうやって手に入れたの?」

「退職金代わりに、な。」














気持ちの良い風が吹き付ける。さくさくと音を立てて草が潰れる。眩しい日差しは本物。このお空はいったいどこのお空なのか。


「で、何しろって?」

「売り文句を証明なさい。その剣、飾りではないのでしょう?」

「了解、どいつをぶっ殺せばいい?」

「少し待って。」

「ああ。」


待てば来る?  手配が早いな。







羽音が聞こえてくる。剣を抜く。


「あれを。」


でかっ、虫かよ。


いかつい角向けたゴキブリみたいなのが、かっ飛んでくる。

とはいえ真っ直ぐで速いだけ。

ぐんぐん突っ込んできて、視界を圧迫してくる。

晴れ空の下で黒黒と照り返す黒いガワ、角なんて犀みたいにがっしりして分厚い。簡単に折れそうにはない。

黒黒とした目ん玉がすぐそこに。どこ見ているか分からん目だ。こいつも前世人間だったりするのか。俺もモンスターだったりするんだから。   考えたって仕方ないか。

一歩引き

頭と胴の間に刃を滑りこせ

首を断つ。

勢いそのまま滑らかに地べたまで落ちていく。跡に剥げた土を残して。

頭を砕こうと、振り上げ


「止まって。」

「いいのか、化け物ってのは首切ったところで死なないぜ。」

「これには十分よ。」

「そいつは知らなかった。」

「どんな田舎から来たの?」

「修行と称して、毎日おっかないのと戦ってたもんで。」

「なら、その度胸も納得ね。」


ジンが、努めて平然とそう言う。

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