新マップ
スパイス、香水、汗やらなにやらが入り混じった空気が辺りを満たす。道行くおばちゃんねえちゃんのスカートの色も赤、青、黄色。アクセサリーだって耳飾り、首飾り、腕飾り。華やかこの上ない。
足元に敷き詰められたタイルは、埋もれたり削れてたり。それにしてもこんな広い道路を見たのは久しぶりだ。外車を走らせればそれなりに絵になるだろう。とはいえ走っているのは馬車ばかり。曳いてる荷台も様々。上りは葉物と果物。近くに村があったからそこから来たのか。下りは幌で覆われてて見えない。
通りには2階建ての建物がいくつも。これ見たのだっていつぶりなのか、数える気にはならない。みんな余念なく装飾されていて、特にでかいところだと彫刻まである。そいつはなにかの伝説から取ったのか、羽根の付いて、布1枚で体を見せつけているねえちゃんを象っている。それで客寄せになるのか?
商談か買い物か話していた奴らどころかガラス窓の向こう側でさえこっちを見物してくる。暇でもなかろうに。見応えがあるのは後ろの奴だろう。
建物が途切れ、広場が現れる。
左手には大きな建物。人がいくら入るのだろうか。
角張っていて左右対称。白い壁は冷たく輝く。
右手には恐竜の骨組み。縦には大人3人分。頭から尻尾の先まで20人整列できるくらい。太い後ろ脚、腹の辺りにも1対の脚、前脚というより腕があって、頭なんて昔博物館で見たような形そのもの。口を大きく開いて今にも噛みつきそう。2対目の腕近くを腰にして、蛇が鎌首持ち上げたような体勢で飾られている。
人の質が変わってくる。傷だらけのおっちゃんが派手に化粧したねえちゃんを連れて鼻の下伸ばしてやがる。こういうのはどこも変わらんね。いかつい獲物担いでるねえちゃんだって格好いいあんちゃんと美人さんを侍らせている。ポン引き、怒鳴り、喧嘩、随分と楽しそうなところだ。
向こうまで石組みの分厚い壁、目の前にはこれまた分厚くて飾り気のない鉄の扉が今は開けられている。その向こうには暗がりが広がっていて。
関所だな。街の外れというのが変な感じだけれども。
門の前にはおっちゃんが立っている。剣を佩いていて、革鎧というのか、焦げ茶色のそれを装備している。あれくらいでここらのおっちゃん達に効果があるんだな。たしか、俺だと剣先でそっと撫でるくらい。
こっちを認めると歩いてくる。ここを守っている自信がそうさせるのか、しっかりとした足取り。それでも少し動きが硬いようだけれど。
「免状を。」
「これでよいか。」
「拝見します。」
2枚分の紙––うにょうにょした達筆に判子が添えられている。––を渡すと、
さも恭しく受け取る。
一応見たというだけで、それを返してくる。じっくりとは検分しない。信用されているのか。
「どうぞお通りください。」
ガキにペコペコするのも大変、というか冗談じみてる。とはいえこれが外では正しいんだからなんだかな。一番偉いのは後ろのこいつだけれども。態々高いところに居て、降りもせず、喋りもせずという念の入れよう。
「お役目ご苦労。」
暗い部屋にはなにもない。階段とかもない。どこへどうやって行くのか?
「これ、どうすんの?」
「進んで」
「目を瞑って。」
「ああ」
「開けていいわよ。」
青々とした草が涼やかな風に揺れている。右から左に順ぐりに揺れるのは波のようで。
試しに踏んでみればさくりと折れる。本物だ。ふうん、街の下ってこんな爽やかだったんだな。東京もこうならよかったのに。
向こうには麦畑が広がっている。背丈も高く、穂が実っている。1季節過ぎれば刈り取れるだろう。
「いけないわ。」
うちの田舎にもあったんだが。
その近くには石づくりの家が密集している。今煮炊きの最中か、煙を幾条も上げている。懐かしいな。
踏み均されて道ができているところを同じように歩いていく。
地下2階は穴蔵。よくある洞窟タイプのダンジョンだな。ひんやり湿っていて薄ら暗い。
「これどうやって移動してんの?」
「袋の裂け目よ。」
「裂け目?」
「2つの袋にどちらも切れ込みを入れて、繋げるの。」
「そしたら中身を移動できるって?」
「そう。」
時空って穴開けていいんだ。
よくある階段で移動じゃなくて、ロード無しでマップ切り替えるのか。ハイテクだな。無駄に長いロード画面が懐かしい。
「モンスターとか出ないのか?」
「彼らは賢いのよ。態々殺されにいくなんて、愚かだわ。」
一番のモンスターは
「お前のことだろう。」
「あなたも十分よ。」
こういうところでよく出るのってなにか。こうもりか、盗賊か。もっと強い奴もいるだろう。魔法使う奴とか。落とすアイテムは豪華だといいな。リボンとか。メタスラがいればもっといい。
「ここが井戸?」
「ええ、でも底はまだ先。」
暗い天井がずっとずっと空の向こうにある。腕を伸ばしても全然届かない。足を動かせば、ねっとりとした弾力が返る。ひたひたと冷たい圧が身体を覆って、息をするのもやっと。
振り返れば
剣を抜いた奴が腕を横に伸ばして
そこへ吸い込まれるように、鰻の化け物が自分から切られ
見事な開きができる。でかいかば焼きになりそうだ。
「そいつ、俺でも倒せる?」
「無理。あなたはここまで。でも」
「あなたには仕事が用意してあるわ。」
「そりゃいい。」




