エンカウント
細いがなだらか道。石が敷き詰められていて、ブーツ越しにも滑らかさが伝わる。
この辺りはまだ見たことあるような木々に草が生えている。夏が過ぎれば華やかになることだろう。白い花が咲くんだ。木はでかいのに、小さくてかわいらしい花びらで、いい匂いもしてさ。もう一度見ることがあるのか分からないが。
それを知っているのは
「これからどこへ?」
「井戸の底。」
「井戸? 態々水でも汲むのか。」
「あなたは、経験値って言ってたわね。」
「バトルしたら経験値が手に入る。常識だろ。」
「その、経験値が限りあるものだとしたら?」
「あったらなんだ?」
「強い人が莫大な量の経験値をずっと1人占めすることにならない?」
レベル99になるまで頑張るよな。そうすると終盤に金余って仕方がない。ああ金貨は有限だってことか
「貧乏人には鐚1文足りともないってことか。」
「そうね。ならどうすればいいかしら?」
「量を増やせばいいんだろう。」
「そういうこと。」
でも、経験値がないからってなんだって言うんだ。スライム以下の虫けらだって生きているんだから、大したことないだろうに。 というかだったら井戸ってのはなんなんだよ。なにが底にあるのか。
悲鳴が響く。
おっちゃんどもがこっちを見るなり逃げていく。半端に漁られた荷と、頭をかち割られた倒れている誰かを残して。なぜだろう? 後ろを見ると
熊に横乗りになった、小さな人。そいつは派手な外套を被っている。青い生地に黄色い刺繍。足元から花、見上げる犬、翼を大きく広げる鳥。顔には金色の仮面が嵌められていて。星と、その鋭い輝きを彫りつけている。夜を纏うとか言ってやがったな。どこの森からお出でになられた蛮族のお姫様でしょうかって感じだな。
ゆったりと、前を指し示して
「報いを。」
「仰せのままに。」
いつもと同じように木の根を跨ぐ。次から次へと、逃さないほどには早く、でも追いつかないほどには遅く奴らの背中を追う。
順調に奴らの巣穴に突っこんでいるのか、鳴子がガンガンなっているし、ちゃちな罠なんていくつも踏み潰した。
人間ってのは図体が大きいもんだから、少し動いただけでも随分うるさい。枝がさくりとつぶれる音、気流の乱れ、おいおい虫さん踏むなよ、かわいそうz 少し首を動かせば
風切り音を跡に残して、矢が明後日の方へ飛んでいく。
目の前には、毛むくじゃらで、あちこち傷跡のあるおっちゃんが引きつった顔を見せる。ガキ相手にびびるなよ。
それでも寄ってきて
振りかぶってくる剣
そこに俺も剣を置くと
折れた。やっちまった。なまくら使いやがって。
「どけ。」
別なおっさんが代わりに突っ込んで、手首から肘いかないぐらいの長さの短剣の二刀流、かっこいいな。
唇をぎゅっと結んでこっちに進んでくる。リーチが短いのによくやる。
突き
刃をそっと這わして受け止め、向こうは滑らせてくる。もう片手で腹に一撃食らわせようって。なら
右手へ一歩前に、短剣払って
背中をすれ違いざまに叩く。
「次は?」
後ろに飛ばして、どこかに転がっていく。
前に立っているのが4人。少し離れたところに弓持ってるのが2人。どいつもこいつも、裾が欠けていたり、千切れら布が当てられたりと服がボロい。腹に穴でも開けたのか。さすがにパンイチにマスクしてはいないか。それでも剣だの弓だの揃えてるのは不思議だな。
(でんじは)
逃げ出した奴の背中に向かって。どさりと、その場で凍ったみたいに倒れこむ。
残りが一斉に向かってくる。逃さないことを理解したみたいだ。
左右からこっちの動きを制限するように矢を放ってくる。
誘われるままに動いてやると
足を掴まれる。さっきのおっさんだな。
前のおっさんが斧を振りかぶって、右のおっさんが槍で突こうと、左のおっさんが剣で斬り掛かって
硬い刃先が迫り
肌で止まる。いくらめりこませようとそこ止まり。痛みなんてまるで来ない。
どいつもこいつも理解できないと言わんばかりに黙りこむ。
呆けた顔晒すおっちゃん達。
とうとう全員逃げ出す。
(でんじは)
めいめいバラバラに駆けたせいで、倒れた奴を繋げば円になりそうだ。誰か1人くらい逃がそうとか考えてたのかもな。
そして
(どくどく)
「今貴様らに呪いをかけた。体から熱を奪い去り、次第に命を奪い去る呪いだ。時至るまで、ゆるりと待つがいい。」
肩で風を切りながら向かってくる男がいる。力強く地を踏みしめて。体の先まで自信に満ち溢れてている。
こいつらの頭だろう。さっきまで怯えた顔してた奴らが縋るように、なんとか見上げている。
言葉無用と見たか、向かってくる。
力まない、できると確信した足取り
斬り掛かってくるのを
優しく、そっと受け止めてやる。さっきのおっちゃんどもと速さも強さも少ししか違うわない。
けれども、驚いたように目を見張る。どうした? 思ってた手応えが違ったか? 鉄板より硬かったか?
もう一度斬り掛かってくる。
もう一度
もう一度
もう一度
何度だって、同じ結果をくれてやる。
男が間合いを取る。もちろんそれを許してやったからだ。
男の顔はそれでも、揺らがない。
再び向かってくる。斬り下ろす? 斬り払う?
上段から。合わせよ 一気に剣先下げる、ふうん突こうってか
半歩体ずらして、おまけに足引っ掛け
地面に転がす。
皆が地に伏す。ただ聴こえるのは
「よくやったわ。」
「おつかいぐらいはな。」
「でも、剣を砕いた。」
「ああ。」
「力を制御なさい。最小の力、最小の動き、事を為すにはそれで十分よ。」
「気をつける。」
なにしてもMP消費するからな。例え999あってもファイア撃てってことだ。それで制御できるってのは、ターンごとに、防御、回避、攻撃どれがMP消費少なくなるか、どのくらい加減するか、判断できるようになるってことみたいだ。まだまだ甘い。経験値を稼がないと。
「あなたならできるわ。」
「精々頑張るさ。」
こうやって土を埋めるの始めてだな。聞いたことはあるんだが。今やってるのは若いあんちゃんだ。
奴も隣りで土を掘っている。
「埋めるんだな。」
「人が亡くなったらお墓に入れる。普通でしょう?」
「そりゃそうだが。」
殺しても死なない奴に言われても。
「このあんちゃんは吸わないのか?」
「刈ったものは食べてもいいの。」
「勝ったの俺じゃないか。」
「あなたの成果は私の成果。」
「お前の失敗は?」
「私の失敗。」
「墓は石じゃないんだな。」
目の前には大きな樹。
「石は風の前に削れ、時の前には埋もれるわ。でも、木は百年千年先だって、聳えているわ。例え倒れてもいずれ新しい木が芽生える。」
「ね、永遠でしょう。」
「そうだな。」
足下には、この広い森の下には、全て死体が埋まっている、かもな。




