人間やめた結果
膝の上に乗って、甘えるようにしなだれかかってくる。体温が高くて体重も軽いおこちゃまそのものなのに。
「んふふ。」
「何が楽しい?」
「ご飯って楽しいじゃない。」
跳ねるように口ずさまれる言葉。
「お前の作る飯は、うまいよ。」
「嬉しい。なら分かるでしょう。舌の上を味わいが満たす幸せを。とろりと喉に落ちる快感を。」
「……。」
顔を撫で擦ってくる。
「わざわざ、こうやる必要あるのか?」
「どこに噛みついて欲しいの?」
「どこって」
「どこでもいいのよ。手でも足でも。それとも違うところ?」
手首に絡みついてくる。さっきからどこで覚えてくるんだ。
「いちいち穴開けて?」
「これでもいいわ。」
目の前でナイフを弄ぶ。きらきらと輝いて、よく切れそうだ。いよいよ食材気分だな。
「これだと時間かかるけれど。」
「へえ。」
「だって、切ってもすぐ塞がってしまうもの。」
「そう、だな。」
リジェネ付きだったな。便利な身体だ、全く。
「ゆったり味わうのも良いわね。」
肌にわざと刃を滑らせて、浮かび上がった赤い線に口づけてちまちま舐めとって、顔を上げたら血まみれの口で笑いかけてくる。それを何度も何度も
嫌だな
「……首でいいよ。」
「ええ。」
胸元に顔を埋めて
「っ。」
吐息が擽ったい。
口づけられ
刺さる
身体の中に埋まって、硬いのが
なんか吸われていく。
こういう時どこを見ればいいのか、上を見ればいつもの天井。窓の向こうは青い空。下には白みがかった金髪がさらさら流れていて、自然に広がって繭みたいに包まれている女がいる。
とくとくとくと、飲みこまれた胃の底へ落ちていくのが肌越しに分かる。
蚊よりはかわいいか。
「おいしい。」
「まじか。」
「香ばしさと一緒に口いっぱいにおいしさが広がってね、その後に爽やかな酸っぱさがくるの。それでね」
食レポされたところでどういう気分で聞けばいいんだろうか。血なんて錆び臭いだけだろうに、味覚も違うのか、化け物には化け物の舌があるんだな。つーかそれでよく今まで飯作ってきたな。それで仕上げてんだから大したもんだが。
普段と同じように走っても、ぐんぐんと距離が縮まってくる。
奴なんてすぐそこ
いない。
「足元。」
くそ、砂が。ジャリジャリする。足引っ掛けてきやがった。
「げ」
背中から胸を一突き
ぐりぐりとえぐりこむ。刃が肉を簡単にぐちゃぐちゃにしていく。
「速く走れて嬉しいのは分かるけれども、不注意なのいけないわ。」
ありがたいお言葉が傷に染みる。
「痛い?」
「そりゃな。」
「それだけよ。私たちにはそれぐらい致命傷になりえないの。」
ぶっ刺さてたのが抜ければ
あーMPが減っていく。多分みちみちと肉が生えている。
短い腕を差し出してくる。
「起きなさい。」
どのくらい身体が変わったか、ステータスにでもするなら
まず前の俺を
HP 100
MP 18
ちから E
すばやさ E
きようさ C
ぐらいだとして
今の俺は
HP 100
MP いっぱい
ちから B
すばやさ B
きようさ C
と、なりそう。体力自体は据え置き。鉄板張り付いてるわけでもなく、血の通った肉体だ。温かいしな。それでもMPが攻撃をカットしているから見た目より硬い。
相手の攻撃力−MP×係数=ダメージ
みたいな処理になってるんじゃないか。
ちからとすばやさも、そういう処理されて3周りぐらい上がっている。ただそのせいで激しく動くにも防御にも回復にもMPを消費する。ギア戦みたいだな。
で、そのMPは一気に増えた。わざも出し放題。向こうがどのくらい戦えるか試してきたときには、ダメージなしで砂時計12回分継戦した。
で向こうは
HP 80
MP 俺より少ない
ちから A
すばやさ A
きようさ S
おそらくこうだ。
俺よりMPが少ないとした根拠は、継戦時間を測った時に、後半奴は無駄な動きを抑えて節約していたから。そのくらいの弱点はあってくれ、ていう希望こみだけど。
他のステータスが高いのは、俺と同じ処理されているのか? 化け物だから素で高いってのもありそうだ。
今のところ奴の倒し方は、回復できなくなるまでバラバラにするか。もしくはMP切れるまで持久するってかんじだろう。持久戦で殺すのが俺には狙いやすそう。エーテルが無ければ、だが。
とはいえ現実は
「ほら、頑張って。」
「くそっ。」
左手が切り落とされる。
こうだ。
生やすのにはMP10ぐらいつまりわざ10回分、くっつけるのは0.1。そんな余裕がないけれど。
攻めても隙を突かれ、待っても
「行くわよ。」
「っおう。」
奴がばたばたやってくる。
殺される前に、踏みこんで
横薙ぎ
避けたところ蹴
「うそ」
態々刀身に乗りやがって。
こうなったら
「うりゃあ。」
「んふふ。」
打ち上げてやる。着地狩りだ。
軽々とお空に昇ったおこちゃま。落ちそうな辺りまでゆったりと歩いてのんびり見上げると
向こうも姿勢を直して、逆落としでもやろうってのか。
剣を構え
「うわ」
眩し
「ぐお」
目つぶしかよ、一閃。
「小技」
「それで十分の時もあるわ。」
囁きを後に、吹き飛ぶ。
お空に空き家に地面に森に、もっかいお空に空き家……洗濯機の中身かよ。
地べたにやっと落ちた。
ぬいぐるみみたいに後ろから抱き締められる。
「つーか普通に修行しないの?」
「走ったり、筋肉鍛えたり?」
「そうだよ。」
ひたすら藁人形みたいにバラバラにされるよりは甲斐がありそうなもんだ。
「それでもよいのだけれど、あなたは力を手に入れたの。熟せられたなら、より早く、より強くなるわ。」
「慣れるために殺し合うって?」
「真剣に、身体を使うでしょう?」
「分かりやすすぎて涙がでるな。」
ブーツを履けばぴったり。手袋もそうだ。シャツとズボンも確りした作りで他人の臭いがしない新品。外套もあって、ロープレの序盤の装備だ。ステータスは随分いかついが。
「どうかしら?」
「サイズ合ってるよ。」
「よかった。」
上から下までそうだ。成長を見込んで大きめということもない。手紙に書くだけでこれなんだからどうなってるんだか。
「立派ね。」
「そうかよ。」
「これで、従士と名乗っても恥かしくないわ。」
「なんだそれ。」
「私に付いて、働くの。」
「雑用ってことか。」
「そうね。」
「で、お前は?」
「騎士。」
「偉い?」
「私達の間では一番下。」
とすると、俺は下っ端の下っ端か。随分お気楽だ。
「もっとも森の向こうでは違うのだけれども。」




