覚めても見る夢
「起きた?」
知ってる天丼だ。
「俺、生きてたんだ。」
「死んだわよ。」
「……殺したやつが言うんだから、そうなんだろうな。」
ベッドの横に座っていた奴が、首筋の辺りを撫でさする。
「くすぐったいんだが。」
聞かずに擽り続ける。血管の上辺りを爪先で引っ掻く。
「じゃあ俺は今なんだって言うんだ。」
二度あることは三度あるって、こういうことなのか。
「なんだよ。」
ふと、手を差し出す。
「握り返して。」
「ああ。」
それを握りこむ。小さくて、薄い子供っぽいというか女の子っぽいというか。
「っ」
急に力を入れられる。砕けそうなくらい。大昔に親父と腕相撲したときよか強いな、こいつは。
「これが」
「……。」
「今のあなた。」
「ね。」
「ああ。」
まじかよ
細腕が離れて、取り出されたのは皿と、綺麗に並べられた林檎。しかもうさぎさんだ、かわいい。それを口に押し込んでくる。しゃくしゃくと歯切れよく噛み切れる。
「自分で食える。」
「駄目。」
おかわりを放りこんでくる。
「ふふ。」
餌付けするのを楽しんでやがる。
「いいから」
フォークを持たされると
あっさり潰れる。
これで理解できたか?、と目で言ってきやがる
「分かったよ。」
いつものように向き合う。少し慣れたらこれだ。
向こうは前にも見た透き通った剣を持っている。
「俺もそいつが欲しいぜ。」
「あなたには早いわ、匙を壊さずに持てるようになってから。」
「俺にはこれで十分って?」
「ええ、どう扱っても壊れない。」
手元にあるのは無骨というか粗雑というか、一回り大きければどこぞのソルジャーを名乗れそうな、いかにも剣でございって感じのそれだ。
「それは違うのか?」
「とても。きちんと扱えたら一人前よ。」
「へえ。」
じゃあ、打ち合いさえすればこいつで壊せるってわけか。とはいえそれでどうにか、なるか?
「で、どうすんの?」
「いつもと同じ、行くわよ。」
「ああ。」
一歩一歩、近づいて。ゆったりと、笑いながらこっちを見据えてくる。
走り始め
「へえ。」
昨日は随分早送りだったが、今日は速く走っているのが見える。短いあんよをばたつかせているように見えて笑えてくる。
動作の起こりが見える。ゆったりと剣を振り上げる。そこらのおっちゃんが鍬が持ち上げるより断然軽やか、それこそ木の棒みたいに。刃の行き先に剣を置いてやると
「いいわ。」
「ちょ」
土壇場で横薙ぎ。
ああ、また空飛んでやがる。本日も晴天なり。
「お疲れ様。」
ちょうどキャッチされる。人を黒ひげみたいにぽんぽん気軽に飛ばしやがって。ゲロゲロ吐きたいところだ。胃袋はそこに転がってるが。
ちょうど中学生ぐらいのガキの身体が大の字で地べたに落ちてやがる。なんかで編まれたズボンにシャツ。他のガキ共と同じ。鏡なんてないから、こうして自分の身体を眺めるのもそうはなかったな。これか今の身体か。違うような気もするけれど、もっとも前のはいつだったことやら。
「ほら、起きて、」
「いや、死ぬから今から死ぬから」
「なんてことない、でしょう。動かないだけよ。」
「それ死体って言わないか。」
「あなたは死んでないわ。」
「ああ。」
そうか?
「血出てないな。」
「飲んじゃった。」
「ああそう、うまかった?」
「とても。あなたが一番おいしかったわ。」
「そいつはよかったよ。つーかどうなってんの?」
「大人になったの。」
「成長するとみんな化け物になるのか。」
いやな世界だ。もしかして、深海に蛸でもお住まいなのか。
「右手、動かしてみて」
うわ動いた。気持ち悪いな。グッパグッパと念じて見れば、その通りに動く。
「左手上げて。」
「おお」
「右手上げて。」
「こうか。」
「右手下げないで。」
「遊ぶなよ。」
「なあに?」
「いや。」
首無しの死体が手をバタつかせている。いいことあるとすればターンxごっこができそうなことか。オールレンジアタックとかいいな。にしてもなんで動くんだろ。HPがなくなったらMPで代替する的なやつか。理不尽だな。
「満足したか?」
「うん。」
残骸に近づいて、首を胴体に
「はい。」
うわホントに付いた。プラモかよ。手も足も動く。これは前からか。俺まで立派なモンスターじゃねえか。
「そういや、お前も大人になったのか。」
「そうね。」
ちびっちゃいくせに、唇を薄く吊り上げてお上品に笑う。
「へえ。」
にしてもやっぱりこいつボスだったんだな。そのうち討伐されるだろう。で、俺はその取り巻きと。
「今日はご馳走、作るわ。」
「俺は飯食って、それをお前が食うって?」
「そうね。」
「1回で全部吸うんじゃないのか?」
「それっきりなんて勿体ないでしょう。」
「どうぞ。」
新しい皿が目の前に。紅いソースがかかった肉の塊が1つ。
運び終わったらそのまま向かいに座って、なにが楽しいのかこっちを見てくる。
ナイフとフォークを動かす。見苦しくは、ないはず。
刃は肉に立てれば、あっさりと沈みこんでいき、断面から紅い液体が垂れ落ちる。
口の中に放りこめば、柔らかい肉が溶けて、油と旨みが広がる。それを打ち消すように、酸っぱくて爽やかな風味が舌を覆う。
「その碗に入ってるのは」
「お酒。」
「飲んでいいのかよ。」
「もう大きいでしょう、あなた。」
「そうだな。」
昨日も一昨日も見たような碗を持って
「乾杯。」
「それは?」
「するもんじゃないか?」
いなくなった奴らに、なんてな。
「そうなの?」
「ああ。」
甘い酒だ。嫌いじゃない。




