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生け簀の国のジン   転生したら幼馴染にボス耐性があったんだが  作者: 長月未至


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10/14

お仕事体験

おっちゃんが半目でこっちを見てくる。使いこまれた靴はよく手入れされていて、上着は木々の合い間で馴染むような色合いだ。


「よろしく頼む。」

「今日は俺達の仕事がどんなもんか、ちっとばかしでも分かってもらう。」


裏でジンから、おっちゃんはなんて含まれているのかな。様子を見てこい、どこの筋のもんか少しでも炙り出せ、とか?  ま、信用される必要はない。


「了解。ところで」


犬がいる。なぜか茶色いふさふさの毛がいっぱいのお腹を、肉球丸見えの脚を宙に向けてひっくり返っているが。


「あんた強いんだな。」

「それで?」

「多分。昨日見たよ。うちの若いのを手早く片付けるところ。」

「どぎつい稽古つけられたもんで。」

「たいそうおっかないことしてたんだろうな。」

「そうでもない。」


あれだけ首飛ばされたんだから、強くないと嘘だぜ。


「とはいえ強さが全てじゃない。」

「そりゃそうだ。世の中そう単純だったらいいとは思うがね。」


連中強いのをしこたま抱えてるだろうに、なんでこんな迂遠なことをしているのか?










「狩りをやったことは?」

「真似事ぐらいは。」

「お腰のでか?」

「これもある。」


石を拾って、軽く投げる。

上手く回転がかかって、甲高い音を立てて真っ直ぐ進み、葉に穴を開ける。


「たいしたもんだ。」

「肉にもちゃんと穴空くぜ。試したからな。」


でもこれいつ使うのかやら、逃げる背中に撃つ時とか?  その前に首はねちまいそうだ。後は相手が多い時とか?  それこそ1対1を何遍だって繰り返してやればいい。










薄ら暗い木々の下を歩く。涼やかな空気に、青い葉っぱの香り、湿った土の匂いが入り混じる。ただ無駄に静かだ。


「これから会いに行くのはウサギだ。ご婦人方の鞄や小物入れに使う。」

「そういうのもやってんだ。鎧とか聞いたけど。」

「こっちが本業だ、俺達にはな。大将は手広くやってるが……。」









尻尾が揺れながら、短いあんよが前へ前へと踏み出す。真剣な顔していても、犬が歩く姿はいつ見てもかわいい。





「これが足跡だ。」


地面を浅く圧してできた小さな跡がある。


「これを追って、近づいたら」


小さな弓を見せてきて


「やっつける。でも、ここだと沢の方を通るからそこで待って撃つかな。」


遠くから聞こえるかさかさと草っぱを揺らす音。それが段々と小さく


「あっちにいる。」



「ああ。」

「逃げてないか?」

「そうだな。」

「ビビってる?」

「あんたが強いからな。」





鳥が飛んでいく。1、2、3、たくさん。茶色い羽にふっくらした腹。か細い脚が空に泳ぐ。


「あれは?」

「肉がうまい。」


みんなどっかいっちまうな。








「あーあんたがいたら獲物が逃げる。それが必要な時もある。でもそれだけだと厳しい。」

「つまり?」

「これをやるのは難しい。」


すごい、1回でクビを食らった。強くて駄目な時ってあるんだ。



















デスクの向こうに座るジンを見下ろす。


「案の定ね。」

「分かってたのか?」

「やってみないと分からないこと、あるでしょ。」


よく言う。


「それでも、あんた練度が高い、予想はしていたど。引き抜いたのだってここまでじゃなかった。」


練度、レベルのことか


「おっと、どんくらい殺したとか聞くなよ。米粒一々数えないだろ」

「そう、初期投資がいらないのはいいことね。」


経営シミュでもやってる感じなのか。冒険者ギルドを経営して富と名誉を築こう、みたいな。コツは稼働率を高めることだぞってか。洋ゲーでありそうだ。


「次の使い方は考えてあるんだろ?」

「鞄持ち?」

「悪くないが」

「それは今度ね。」




芳しい香りがする。漂う煙を辿れば、


「それ、コーヒーか?」


カップに黒い液体が半ばまで入ってる。


「ほぼ、そう。」

「ほぼ?」

「香りがね、苦味と酸味は良いけど。」

「へえ。」

「あんたは恋しくない?」

「あんまり頓着しない質なもんで。」

「羨ましい。」


ゲームがしたくてたまらん。今こそゼルダとか気持ちよくできるというのに。これぞ勇者様ってなら感じで。












昼間の食堂は、日差しでなんとなく明るく、テーブルには近所のおっちゃん達が早い昼飯かなにかで盛り上がって。


「なんか、飲み物とつまみくれ。」

「ミルクでいいのか?」

「いいな、甘くしてくれ。」

「冗談だ。酒はなにがいい?」

「いや、ミルクで頼む。酔えないんだ。」

「人生損してるぜ、そいつは。」

「だろ、魔女に呪われてね。」

「魔女!  嘘だろ?」

「俺も思うよ。でも偉い人がそう言うんだぜ。」

「こうか、 お前は呪われている。」


食堂のおっちゃんがいかにもおふざけって声音で言ってくる。


「ホントさ、見せてやるよ。」

「なんだって」


ポケットに手を突っこんで


「これなんだ?」

「石だろ。」


そいつを握りしめると


「どこにいったと思う?」

「そのまま。」

「へへ、そうかな」


勿体ぶって



ゆっくりと




掌を見せ


「どうだ。」

「どうだって、砕けて砂になってる。」

「石ないだろ。」

「それが呪いだって?」

「立派な化け物さ」

「とんだお上りさんだな。ここらへんじゃ珍しくない。」

「へえ。」

「今度は俺の番だ。」


コップにとくとくと牛乳に注いで

そこに日に焼けた骨っぽい手を翳すと

みぞれみたいなのが、ふわりと落ちていく。


「飲んでみろ。」


とろりとしたうまみを舌の上で転がせば、シャリシャリ鳴る。シャーベットみたいだな。


「うまいな。」

「どうだ、俺が呪われているか?」


厳つい顔がにやりと見下ろしてくる。


「少なくとも、美の神様には祝福されてない。」

「うるせえ、男は面じゃねえ。」

「冗談だ。つまみくれ。」

「……炒り豆と干し葡萄がある。」

「いいね、それで。」















「騎士様よ。」


真っ白な顎髭を生やしたじいさんが話しかけてくる。


「騎士ってそう見えるか?」

「立派なおべべを着てなさる。」

「その騎士様の小僧ではあったけど、今はこの通り。それでなんか用か?」

「おしゃべりだけが生き甲斐なものでして、ぜひともあなたにみ伺いたいと。」

「話相手なんて、上にいくらでもいるんじゃないの?」

「滅多にお許しがでないもので。」


騒がしいところがすぐ近くにあるのに、ここに居るしかないのか。


「いいぜ、なにが聞きたい?」

「ありがとうございます。  騎士様は何処にお住まいだったのですか?」

「田舎も田舎さ。そこに森があるだろう。」

「ええ、恐ろしい獣が山程ある、黒い森が。」

「俺は、似た森の中の、小さな村で生まれてね。ここと同じようにみんな麦を育てていたな。」

「よく実りましたか?」

「どうかな、主人に扱かれていたから、あんまり関わらなかったんだ。」

「修行ですか?」


豆を指先が粉々にする。


「ほお。」

「このせいで、スプーン握るのにも一苦労でね。力の扱いを憶えろって、訓練つけてもらったんだ」

「大変だったでしょう。」

「まあね。」


指で首を切る。


「このくらい。」

「ははは、冗談まで修行つけてもらったので?」

「そうだな。」



「それである日突然、暇を言い渡さんだ。」

「それはまたいったいどうして?」

「さあね、お上はいつだって気紛れさ。」

「心細くありませんでしたか?」

「そうでもない。力があるからな。どうとでもなった。」

「羨ましいことです。」

「じいさんだって畑いじって、楽しいだろうに。」

「私は幸せです。ただ、全ての子には畑を渡してやれんのです。方々に世話してもらっても末っ子は軍に」


世の中大変だな。甘ったるいミルクを飲み干す。


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