雑魚戦
革鎧にブーツ、外套と余さず身を守っているねえちゃんが目の前に。そんな固めていても傷跡がいくつか残っている。向こう傷だからかっこいいって言うべきだな。
俺とか奴とか強いやつは傷が残らない。奴はノーダメ縛りかもしれんが、俺なんてしょっちゅうバラバラにされている。それでも残らない。もしかしたらMPがたくさんあるやつは傷が無くなるってのが正しいかも。
だから、この女のステータスを考えるなら
HP 80
MP 俺より少ない
ちから D
すばやさ D
こんなか。
補正の数字はみんな同じなのか? 今のところ
奴>俺>こいつら
って感じだ。馬力はまちまち、個人差か種族差か? もっと場数を踏めば分かるだろう。
レベルも上がれば最大MPだけじゃなくて、補正が上がるのか、これも調べないと。俺がレベルを上げるにはどれくらい必要なのか分からないけれど。
「あなたには、鹿と、その群れを倒してもらう。」
「これで」
剣を軽く叩く
「ぶっ殺せばいいんだろ?」
「ええ。」
「お安いご用だ。それでこの先に?」
獣道の向こう、森の中を指さす。
「そう、仲間が誘導している。これから案内する。」
「そいつはあんたらにとっても強いのか?」
「いつもと同じだとしたら、つまり4人で相手するとなると、手間取る。」
引いた方がいいのか、足した方がいいのか、分からない。強い方がありがたいね。
「それを俺一人で?」
「十分という見立て、あなたならできる。違う?」
「そいつは間違ってない。」
1匹ならどうとでもなる。相手は攻撃を余裕で避けてびっくりさせてもいいし、ばたばた走ってヤッちまってもいい。
多数はパズルだ。順序よく捌けばいい。それをする時間も能力も十分にある。
同格だと、面倒だな。攻撃通すか通さないか肉を切るか切らせるか、駆け引きがMP切れるまでひたすら続く。焦れた方が負けるってのは分かるが。
「狩って、その場でバラすのか?」
「場合による、小さいならそうなる。でも今日のは、大きいから持ち帰る必要がある。」
大の大人が血まみれの中で、黙々と解体する。それは普通のことだな。
「こっちから質問、いい?」
「いいぜ、答えられることなら。」
なにか隠すようには指示されてない。分かる奴には分かるように振る舞えとは言われた。公言しないけど、隠しもしないっていう塩梅。いったい誰にプレッシャーをかけているのか。それとも釣りなのか? 俺が餌なのは間違いなさそうだ。
「どうすれば強くなれる?」
「お前も悪魔と契約すればいい。お代は魂だけ。」
噛みつかれれば契約完了さ
「不躾だった。」
「……殺せばいいだろう。」
「あなたほど強ければ簡単。でも私達はそうではない。だから弱い獣を仲間と倒して、少しずつ?強くなるしかない。」
弱いやつが這いつくばっている間、強いやつはもっと強くなって、あいつも今頃もっと強くなってるのか。
「そうだ、他に注文は?」
「手早く仕留めて、1撃で。」
いつもやってる最低限の動作、最低限のMP消費で仕留めろってやつね。
「お安い御用だが、そいつはいったいどうした理由で?」
「その方が品質が高くなる。」
「時間をかけると?」
「鎧に適さず、売れない。」
MPが死んでも多少残って、それで補正も続く、ってところか。
「じゃ、頼んだ。」
「あいよ。」
剣を担ぎながら、向こうを見遣ると、薄ら暗い木の下に獣どもが勢ぞろい。猪、2匹の犬っころに、蜘蛛が仲良くこっちに挑みかかってくるみたいだ。よっぽどけしかけられているのか? おまけに木の影からちょこまかと様子を伺う奴に、向こうにでかいのまで。そいつが本命かな?
猪が焦れて、突撃してくる。これがホントの猪武者だな。
焦げ茶色の毛を後ろに流しながら、円らな瞳が真っ直ぐ射抜いて。他の奴らも、もう走り出す
とすると
足元に来る獣の真横に、盾にするように近く
剣を振り下ろし
首を叩き落とす。
残った勢いで、胴体が走ってゆく。
次は犬っころが纏わつこうと1匹飛びかかり、もう1匹が回りこむ。足に噛みつくつもりだな。囮になってでも1撃与えようって? 健気だね。
なら
2歩左に、剣を地べた這うように動かし
ドタマにぶ
くっせえな、ガスだか粉だかモロに、目が開けられん。
それでも走って来る位置に剣先を置いて
骨、顎を砕いて 木の葉が揺れる。
剣を振り上げ
飛び上がっている奴を吹き飛ばす。上から落ちてくる猿
片手を上げ
握り潰
風斬り音が鼓膜をつんざく。
毛玉をぶん投げてきやがった。俺どころか辺りもどろどろ。ちょうど万歳してるみたいで、間抜けも極まったな。にしても、飛び道具こういう使い方をするのか。 これは後で叱られるな。
最後に残った虫けらを
でかい脚が潰す。
鹿さん、ようやくのお出ましだ。
胴体だけでも俺より背が高い。前脚は象よりぶっとくて、うねうねくるくるした毛で覆われている。頭には立派な角、ユニコーンみたいだ。
俺と戦うのは割に合うのか? 逃げられないのか。
そいつが間合いを詰めて来る。視界いっぱいに、毛艶の良い身体が迫って
蹴ろうと足を振るい
蹄が前に。 首の下へ潜り
剣を薙ぎ
毛が滑って抵抗するがぬるりと食い破りその向こうへ。
ばたりと崩れ落ちる。
雑魚の方が数が多い分面倒だったな。
「今回は上手くやってくれたみたいね。」
「雑魚相手なら、あんなもんさ。」
「頼もしいこと。」
また、デスク越しにジンに報告だ。
向こうで、紙っぺらを斜め読みして、満足そうに頷く。
「今回で、あんたの運用方針がおよそ固まった。」
「そりゃ重畳、聞かせてもらっても、ボス?」
「私の下で予備戦力として扱う。」
「切り札ってところか。」
「そうね。」
「へえ。」
「あんたは強い、でもあんたに頼り切りだと全体の練度も上げられなくなる。」
「全うだな。」
「でも、その強さがあれば、限りなくリスクを抑えるられる。それどころか、更なる成長も可能となる。」
「具体的には?」
「危険な獣には、あんたをぶつける。」
「上手く使ってもらえるようで安心したよ。」




