職場の風景 (5)
板張りの廊下を歩く。床は程よく黒ずんでいて、ピカピカ1年生って感じがまるでない。その上檜みたいな香りがする。檜張りのお屋敷建てるのは男の夢って? 少なくとも俺の趣味じゃないな。コレクションを並べられて、一通りゲームが出来れば十分だな。……あれはとっくの昔にゴミに出されただろう。傍から見ればガラクタなのは否定できないし。
呼び出された時はいつも明るく照らす窓ガラスは真っ暗。いくら日当たりも良好といっても、今は夜明けるか明けないかって具合だからな。
蝋燭に火が灯っている。良い香りがするし、おまけに絵付き。洒落た飾りのついた十字架だ。台は何かを背負う男を象っている。
「ボス、朝早いぜ。」
といってもそんなに眠りが必要なわけじゃない。ほぼ24時間稼働だ。俺こそ真の企業戦士さ。
「仕事よ。」
ジンがいつものように言ってくる。
「はん、なんなりと。」
「殿を務めなさい。」
「あいよ。」
どこのどいつをぶっ殺せばいいんだ。誰が来たって苦戦はしないだろ。しても死ぬまでコンティニューだ。
「遠征組から、敵との接触を受け、後続の撤退が完了するまで戦闘を行うとの連絡を受けた。あんたは彼らと交代して、戦闘を継続なさい。」
「お安い御用だ。」
やたら湿気っていて、息が詰まりそうだ。長居したら、黴が生えそうだな。
洞窟、定番のマップだ。簡単なのから難しいのまで、さんざん彷徨ったな。レベル上げしてたら、うっかりしてそれまでの時間を何度パーにしたことか。引き際ってのがあることを学ばされたね。
走っていると、どこまでも行けそうな気がする。これが運動できる奴の気持ちか。あいつらずっとこんな気持ちを味わっていたんだ。ずるいんじゃないか、なんて。これが昔にできれば。いや、それでも連中とは仲良くなれねーな。ナイーブがすぎる。
道案内はもう後ろに。途中までは合わせて走った。連中を一言からかいたくなったな、チャリンコ走らせている先公みたいに。そこまでガキやってないから、口にはしなかったが。このまま真っ直ぐいけば良いらしいから置いてきた。ナビご苦労さん。
暗がりに、灯りがぼおっと浮かぶ。1つ、2つ。その周りには男共に女共。みんなボロボロ。傷を拵えて、矢弾少なく、剣も弓も折れ曲げが多い。HPは黄色、攻撃力1段減少って感じ。バトルは一段落ついたとこみたいだな。雑魚がいったん退いたのか、こいつらが全滅させたのか分からないけれど。
「騎兵隊の参上だぜ。」
男に話しかける。血まみれで、剣にだってべっとりと脂がついている。周りの視線を集めているから、リーダーだな。
「あなたが、1人で?」
連絡された通りに誰か来たけれど、そいつが怪しい、って感じか。おまけに俺は松明持ってきてないし。
「十分だって判断されたのさ。信じてもらっていいぜ。」
「 そうしよう。よろしく頼む。」
十字路を通せんばしていると、ぶんぶんと耳障りな音が響く。羽音のさざめきだ。嫌な感じがするが、少し嬉しいような気もする。まだ人間って感じがするから。
のそのそと這ってくる。黄色い蛇だ。腹の辺りが膨らんでいる、ツチノコだ。ツチノコは本当にいたんだ! これで懸賞金が手に入るな。
真っ二つになる。迂闊に跳んでくるから。やっちまった。ちくしょう。
空気が動く。2匹、3匹と似たような大きさ、同じ色合いの鱗。そいつが跳んでくる。おかわりか。有難いね。
それに、ぶーんと羽音が続く。居た。蜂だ。見慣れた大きさ。スズメバチだな。いかにもぶっ刺さりそうな針ぶら下げてやがる。2回刺されたら、この身体でも死ぬんだろうか? いや、試したくはないが。
殺虫スプレーなんて気の効いたものはないけれど
1匹、落ちるツチノコを斬り
2匹 3匹
合い間を縫って、蜂をぴゅんと斬る。胴体が真っ二つ。こうすると剣豪になったみたいだ。性能にものを言わせただけだが。
地べたを這い回る平たい蛇。その頭を優しく叩いて、動かなくなる。形はそのまま。こうすれば証明できる。ネオジオだろうがなんだろうが思いのまま。
暗がりから、何か現れる。マムシみたいな色合いの鱗、肘くらいに太い蛇の体に、人の身体をくっつけている。ナーガだな。そいつが4匹、シューシューと鳴いている。
真ん中には、杖を持って、綺麗な緑色の石の首飾りしているのがいる。ナーガシャーマンってところか。お供に戦士っぽいのが3匹。槍が2匹、剣が1匹。ナーガランサー、ナーガソードマンだな。どいつもこいつも兜とか鎧とかちゃんと装備着けてやがる。
槍持ちが前に。なんだ一騎打ちってか。
そいつ真っ直ぐ向き合うように立つ。他の敵は見守る。
蛇体が素早く這って、こっちへ。ぐねぐねと曲がりくねる、でかい図体してるのにちゃんと蛇みたいに動くんだな
短い槍を構えて
剣を置くと
暗がりにパチリと火花が散る。 人間よりは手応えがあるな。とはいえ
刃を首へ。
腰を90度曲げて、避ける。マトリックスかよ。身体柔らかいな。背中が尻尾についてやがる。
剣を持ち替え、向こうも肘引いてもう一度突こうとしてくる。
すれ違い
突き刺し、今度こそ首をねじ切る。槍は空をついて、カランと落ちる。
こいつらのステータスはこうだな
ナーガ
HP 90
MP 俺より少ない
ちから D+
すばやさ D
シューシュー、鳴き声を大きく上げる。なんだ、仇取ってやるとか言ってんのか? できるならやってみろよ。
次は2匹がこっちに向かってくる。にょろにょろにょろにょろ。
目の前まで来たら
1匹は地べたすれすれを這って槍を突き出し もう一匹は左から薙ぎはらい
半歩左に。剣を這わせて、そのまま
火の玉が飛んでくる。ファイアだ。魔法か。つーか俺ごとかよ。
目の前がオレンジ1色に、おまけに熱と破片がボロボロと。
前へ踏み出せば、それもお終い。爆発も残骸も背景になる。
最後の敵が
槍を投げてくる。
半歩ずれて
横を過ぎるのを見送る。
もう一発も
避ける。
おまけに杖で殴ってくる
それでも、剣を振り下ろし
首が落ち、キンと甲高い音が鳴る。
頬に何か垂れる。拭えば、血だ。俺の血はちゃんと赤いんだよな。
どこに、周りには居なくて
上か。トカゲがひっついてやがる。石を投げれば
落ちる。
ドカドカと足音が響く。
デカい図体、3本の白い角、頭の後ろまで伸びたビラビラ、ぶっとい脚。
トリケラトプスだ。
そいつが突撃して
そのまま奥へ。
追いかけるか? 殿だから、倒すことよりここに居ることが優先だな。なら止めよう。
じゃあな、誰かの経験値になるまで生きてろよ。




