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生け簀の国のジン   ド田舎に生まれたら、お嬢様系幼馴染が攻撃力も防御力も高い上にボス耐性まであるんだが  作者: 長月未至


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19/19

上長と上長が出会ったら

梨の香りがぷうんと香る。カウンターの奥には甕があるとか。あちこちの飯屋に酒を卸していて、うちの社食もここに頼んでいるらしい。



奥から出てきた親爺が、2本酒瓶をカウンターに置く。


「旦那、ご注文の品はこちらにございます。」


旦那って年かよ、って客みんなに言ってるだけだろうけど。ほら、領収書に上様って書くのと同じさ。

1本琥珀色の瓶。首がきゅっと締まり、中身を悠々と湛えている。ラベルには堂々とした書きぶりでイニスチャ村の酒とある。それに添えられた1枚の羽の絵。普通の形が懐かしさを誘う。人を殴るのにちょうどいい形だ。透き通っていて高級感がある。悪くない。


「これが南の、私の田舎の方のものでして、見てください。この色味、特別な砂を混ぜこむことで、これが出るのです。綺麗でしょう?  もちろん見てくれだけではなくて」


ペラペラと良く回る舌だ。だがこれを聞くのはいつだって楽しい。中味の話をしないのは俺が興味ないから。良い感じのを見つけたら、いつも適当な人間呼んで飲ませてたからな。




「そっちは、どうなんだ。」


もう1つあって、そっちは赤茶色の陶器の瓶だ。はにわみたいな形。その上凝った色塗りがしてある。体には、もしゃもしゃ葉っぱに蔓。赤い花が。顔はぱっちりおめめとひょうきんに笑う口。割れものはそれほどでもないが、色物があると王道が映えるからな。10本に1本あると良い感じだ。ちゃんとセットした棚を眺めると、満足に浸れる。烏みたいだと笑われたが。












鞄を漁り、手触りの良い布が。取り出すと、紫の艶のあるそれが現れる。包みを開くと金色の円いもの。表にはぶつぶつとした果実が刻まれている。それが1山。


「これでいいか。」

「どうも、今後もご贔屓に。」

「また頼むよ。」




















遠くには水のせせらぐ音。近くで葉はそよそよ、合い間にすうっと青い空が覗く。この街には公園がいくつかあって、ここはその内の1つ。人はあんまりいない。もしかしておっかないのがいるからみんな逃げただけのかも。

草っぱらの上に赤い絨毯を敷いて、ちびっちゃい女の子がぺたり座っている。仮面とか藍色の外套とか付けていない。青いシャツにロングスカート、今日は村娘然とした格好だ。

奴のお気に入りの椀に注いでやる。ラベルを上にとか、さすがにこっちでは言わないよな。いや、他の連中なら必要か。


「ありがとう。」

「手酌なんてさせないさ。」


奴は風に揺れる水面に鼻を少し寄せて


「良い香りね。」

「そうだな。」


それから薄くて紅い唇が含み

こくりと傾け



ほおっと息を吐く。


お返しにと、奴が瓶を傾ける。袖から細い腕が覗く。真っ白な肌には青い血管が見える。

向こうまで透ける流れがいつも使っている碗に。ちょっと前までは新品だったのが、今やくすんで、少し渋みが出ている。

飲めば、熟れた梨の香りとアルコールを包む柔らかい触感。それが、熱さを残して喉をゆったりと落ちる。






奴の膝の上に籠が。それを開くと

サンドイッチがところ狭しと詰められている。ちゃんと耳付きで、具材はハムに、菜っ葉に、酢漬けと色とりどり。酢漬けはいつも俺の好みの漬かり具合。口の中がきゅっとなるくらいがいい。


「仲睦まじい男の人と女の人は、あ~んって食べさせあうんでしょう?」


いたずらっぽく上目遣いにそう言ってくる。


奴が摘んだサンドウイッチに俺が食いつく。ペットに餌付けするみたいな絵面、さすがに


「冗談きついぜ。」













」


こそばゆいな。


菜っ葉に根菜、果物に、ハーブが通りを埋め尽くしている。生の水っぽい葉っぱの香りに、湿った土の匂い、鼻に刺さってくる芳しい香り、居並ぶテントの下で、元気に色んなのが商売に励んでいる。

囁かれるた通りに


「それくれ。」


菜っ葉を店のおばちゃんに頼む。


「あいよ。」


俺が食うんだよな。


「なにするんだ?」

「お漬物でしょう、サラダでしょう、おひたしでしょう」


ホントに楽しそうに言うな。

後は果物か、肉は現地調達だし、小麦は仕送りされてくるからな。






人影の中から見知った顔が現れる。


「奇遇ね。」

「そうだな。」


ジンが全くそう思ってもいなさそうな声で、言ってくる。見張られてた?  いくらでも手段がありそうだから不思議でもないか。隠してもいないし。理由なんて、それこそいくらでもあるだろう。こちとら悪の組織の下っ端だからな。

ジンと、俺の横にいる女が目線を合わせる。


「紹介するよ、こっちはジンだ。」


一方はきっと仇でも見つけたように睨む。


「ジン、こちらはリイシェ。俺のお姫様さ。」


もう一方は悠然と見上げる。














小洒落た皿にはケーキだ。いいね。遠慮なくバターと砂糖が使われてておいしそう。お茶はハーブティーだな。黄緑色で、歯磨き3歩手前の爽やかな香りが漂う。

サテンの個室で、2人が差し向かい。


「お聞きしたいこと、あるのでしょう?」

「素直に答えるわけ?」

「私が知っていることは、ね。」


教えてもいいようなことしか知らないのか


「あなた達が、この歪な社会を治めている、そうよね?」


直球で行くな。場を温めてからって話題でもないか。そもそもそういう会話が成り立つ程、前提っていうか空気を共有できるとは思わないか。


「治めるだなんて。ただ君主達が、各々の権利を行使しているに過ぎないわ。それに私達は御すほどの人口はないもの。」


へー、始めて知った。とはいえ寿命長いから、どうとでもできそうだけどな。


「恒常的紛争、小麦の海外依存、海禁政策、この体制を作り上げたのはあんたらでしょ。」

「そうね。」

「どんな利益があるっていうの?」

「よく生きること。」

「……。」

「仕事を一生懸命熟を、よき人と共においしいご飯を食べる。それ以上のこと、あって?」


そんなアットホームでやりがいのある職場だったのか。知らなかったな。つーかこれははぐらかしているのか? 下っ端だからこれ以上の目的なんてないって? いややっぱ


「ごまかさないで。」

「義務よ。人々を守るというね。」

「豚のように飼うことが?」

「それこそ、最も存続の可能性が高いとしたら?」

「むしろ不安定になってるじゃない。」

「人は、その脚だけに依って立っているのではないのよ。力は、1つに集まり過ぎても、薄くなり過ぎてもいけないわ。」


力とはMPで、俺たちは大なり小なりこいつを持っている。んで、動くとこいつを消費する。そしてレベル上げをすると、MPも上がる。つまり雑魚を狩り尽くしてMPを上げまくって独占したら、みんな素寒貧。頭数増えすぎたら、全員貧乏。ってことか。そうなったらどうなる?  あれか漫画版ナウシカみたいな。

にしても向こうもまあ、頑張るもんだ。俺ならそこまでできないね。やったところで楽しくはなさそうだし。少なくとも俺のゲームじゃない。そもそも地球人と比べると、見た目同じだけで俺達全員化け物じゃないのか?  経験値稼いだ分だけ強くなるなんてさ。
















「あの子、おいしそうね。」


誰もいなくなった席を前に、横から囁かれる。



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