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生け簀の国のジン   転生したら幼馴染にボス耐性があったんだが  作者: 長月未至


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13/14

初の休日

休日出勤か。


「社長自ら街をご案内いただけるとは、恐れ多いことでございます。」

「あんたそんなキャラじゃないでしょ。」

「様式美じゃねーか。」

「無駄なのは嫌い。」


社会ってのはそういう無駄でできてるだろうに。ほら、おっちゃん達がクソ真面目に、会議と称してやる薄ら寒いおままごととか。みんなこれが無駄だってわかってるのに、言い訳する為に仕方なくやるアレ。あの遣る瀬無い雰囲気はむしろ面白いだろ。


「本日はどうゆう予定で?」

「ランドマーク見物と、買い物と、ご飯。」

「これぞ休日って感じだ。」

「好き嫌い、ある?」

「無いよ。それがどうした?」

「後で楽しみにしとくといいわ。」








通りを行く。歩く速さは、さくさくさく、と。なんてこと無いように人ごみをすり抜ける。俺の小さな足だとジンに追いつくのが精一杯。なんだか親父とはぐれた時を思い出す。手がスッポ抜けて段々遠く離れる姿に追いつこうとして、でもこのまま離れ離れになったらどうしようって小さい頭がいっぱいになってさ。


「手でも繋いであげようかしら? おチビちゃん。」

「やめてくれ、そのうち大きくなるんだ。」

「あんたぐらいだとあっという間ね。」


あっという間?  そのうちっていつ?  春夏秋冬1巡りしても、奴も俺もそんな身長変わってない。  懐潜りこみやすいから、小さい方がバトルで有利か? でもカマキリは上からの噛みつきが面倒だったな




「人ごみ」


密やかな女の声が、鼓膜を揺らす。


「懐かしい、でしょ?」

「そうだな。」


満員電車を懐かしいと思えるタイプの人?  寿司詰めはいつだって人でなしの所業だよ。

にしても、この人の群れはいったいどこから来たのか。商人?  市民?


「普通の、下の奴らって、街に行けないんだよな?」

「そう。でも私達には自由に出入りできる権利がある。」

「それにはもちろんお代が必要なんだろう?」

「その通り。」


何でも何かと引き換え。俺の強さだって、そうさ。大してキツいもんでもないから良いもんだが。とはいえ、どう受け止めていいものか、未だに分からないけれど。


「金?」

「と、有事に徴用されるってこと。普通、就業実態があるなら免除されるけれど、私達はその例外に当たる。」












「あれがランドマーク。」


この前も見た広場だ、だだっ広い青空の下に寒々とした光を照り返す、左右対称の白い建物と


「あの骨?」


冗談みたいな取り合わせだ。


「それもね。」

「博物館でもないのに。」

「230年前、竜が出て、大きいでしょ。私もまだあれ程のは見たことないくらい。」


あんなでかい恐竜が本当にいるのか。どっかの島で放し飼いにしたいもんだ。おっかけっことかかくれんぼとか楽しめるだろう。


「鱗が大量に取れて大儲けしたから、記念にって。加えて、それだけの戦力があることを示してもいる。」

「鱗」


革を鎧にするんだから、鱗も鎧か。


「それがホントのスケイルアーマーだな。」

「ホント?」

「スケイル違い、ってこと。」

「そう。それと市庁舎よ。」

「市庁舎、あれが。」

「ここ共和制よ、議会がある。」

「というと」

「といっても、有力商人、職人組合トップの寄合といった方が正しい。そこで同意を得たものが市長になる。戦国時代の堺や博多に近いかしら。」

「一番強い奴がここを治めてるってことか?」

「ふふ、そうね。」


ジンが笑い出す。なんかおかしいこと言ったか? 強い奴は偉い奴さ。









「あんた、欲しいものある?  剣から靴まで一通り揃えているから、工房に用はないでしょう。」

「そうだな」


普通の武器は、俺にはヤワいんじゃないか?  飯は世話してもらってるからいい。  ゲームだ、一番必要なのは。この際将棋とかトランプでもいいんだが。大富豪とかあったらな。一番弱いカードで上がるのが一番楽しい。


「将棋みたいのは、ないのか?」

「似たものを知ってる。アテはあるわ。」









広い通りを埋め尽くす人の群れと、テントの列。やいのやいのと値切ったり、商品抱き合わせにしたりと駆け引きがあちこちで繰り広げられている。世界の歩き方で載ってそうだな。蚤の市とかバザールみたいな。


「ここが?」

「そう、市場ね。この通りは木工が中心。お探しのは、ここじゃない?」


ここは、か。他にもあるんだろうな。石とか? 翡翠みたいな綺麗な石を使った、装飾品みたいな。


「ついでにお土産、なにか買っていったら?」

「香水とか?」


それを聞いても、ジンは特に意外そうな様子を見せない。女の匂いがするってか。


「そうね……櫛は?」


消耗品で、かさばらないしで悪くないだろう。奴の気に入りそうな細工があればいいが。白地に綺麗な花とかあしらったようなのとか。


「いいぜ、それで。」




 










落ち着いた個室。くすんだ白い壁が日差しを柔らかく受け止める。大きな窓からは通りを見下ろせる。眺めのいい席だ。ヴァイオリン?  弦楽器みたいなのがゆったりとした曲を、BGM代わりに演奏している。

食卓には既に皿が並んでいる。突き出しじゃない、前菜を

1口食べれば、葉はシャキシャキと鳴って、ツンとした酸味は舌をつつく。


「この街の名前は?」


そういや、聞いてねーな。


「知らん。」

「フォレーム市って言うの。」


グラスの脚、そうっと持ち上げる。傾けて、ぷくぷくと浮かぶ小さい泡が薄い唇の向こうへ、消える。


「そしてここは自治都市よ、では何から自治を許可されたのか?」


急に授業始まった。  どこの先生?


「王様。」


王国があるんだから、王様から許可もらうだろ。


「ハズレ、帝国よ。」

「それだけ?」


なんとか帝国とか定番だよな。パラメキアとかトルメキアとか、ムゲゾルバドス帝国とか。


「そう。大陸を一つの国が治めているから必要ない。」

「治めてる?  戦争してるんだろ。」

「名目上ね。朝廷みたいなもの。」


大空位時代みたいな感じか。


「実際は、封じられた公爵、伯爵が割拠してい

る。例外がこの帝国自由都市たるここ、フォレーム市。」


皿が目の前に、置かれる。開きにされた、白身の


「魚だ……」

「塩焼きよ。」

「シンプルなのが一番だ。」

「初めてでしょ。」

「ああ。」

「この国、魚を食べる習慣がないの。それどころか船って概念もない。」

「へえ。」


内陸ってだけじゃなかったんだ。

船も無いのに、自治権買える程経済発達しているのか。飯屋に、市場がある。つまりそれだけモノを買う奴がそんなにいる。


「自治権も金で買うんだろ?」

「そう。」

「それだけの利益を、誰から得ているんだ?」

「今日、あんたはそれを見たでしょ。」

「え」

「通りに人がたくさん。」



「この国の雇用は極めて閉鎖的よ。」

「それで?」

「大多数の人間はそこからあぶれる。そして彼らは軍に吸収される。」

「じゃあなに、もの買ってるやつら、ほとんど軍人だっていうのか。」

「そうよ。」



街行く奴らはいずれ誰かの経験値になるのか。

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