第9話 (その3)
最後の訪問地、コペンハーゲンで弘明が見たものは!
波止場からホテル前の通りへ戻り、弘明は石畳みの道を行く。そこは遊歩道ではないのだろうが、車と人がうまく融和して平板な街の中で共存していた。
ほとんど建物は石造りで中世の雰囲気を残している。歩道沿いに立つ低層のビルには半地下の店がある。
店は道路との間に側溝を挟んで、店の窓の下縁が路面の高さ程になっていた。出窓ではないが、小さなガラス窓を通して鈍い黄金色のアンティークが並んでいたりする。
気温は10度前後だろうか、それでも湿度のせいか渇いた外気はサラサラと心地好く、風もなく穏やかだった。
(ああ……これがヨーロッパなのか)
改めて弘明は、日本から遠く離れた地にいるのだと思いながらも、不思議に郷愁は湧いてこない。顔を上げて空を見上げて、深く息を継ぎながら街行きを楽しんでいた。
人魚姫の像へ至る道は迷うことなく、建物に囲まれた道はやがて大きな四つ辻へと繋がる。空は相変わらずだが、潮の香りで海が近いと知れる。
右手を見ればビルの谷間に運河を隔てた港湾設備が見える。左を見れば様変わりしてそこはかとなく明るい森が広がっている。
どちらを見るでもなしに歩く弘明は、ふと目の隅に碧い光が差し込む様な気がした。振り返ればそれは、平板な街並みの中にひときわ背の高いビルが建っていた。
まるで他を睥睨する様な様なのだが、白っぽいグレーの外壁になぜか曇天の下でも窓ガラスは碧く光っていた。
(あれは……)
と、どこかで見た様な気がした。
すぐに弘明は、ビルの上ではためく社旗を見て合点した。
それは紛うことなく、週明けにアポを取っている船会社の社旗だった。
青地に白抜きの星、何度も神戸港で訪船しているAMPシッピングの社旗に違いない。弘明の目に止った碧い窓ガラスは、明らかに社旗の色と符合して、曇天の空の下でも遥か彼方を見通す様に光彩を放っていた。
弘明は人魚姫の像へ向かうのを忘れ、ビルの方へ向かった。
勢い早足となり、碧いガラス窓へ向かって歩く。
行くにつれ中世の町並みは近代的な造りに変貌していく。芝生を張った前庭を越えてゆったりとした車止め、そしてその向こうに、一面ガラス張りのフロアーが見えた。
土曜日なのだが三々五々ビルへ向かう人がいる。誰もが洗練された身なりでスマートな動作、見ている者の心をざわつかせる。
そんな思いに一人歩道に立った弘明は、改めて空の風に吹かれてはためく社旗を見つめていた。
(つづく)
今週末で完結します。よろしくお願いします。
船木




