第7話 (その3)
10月1日月曜の午後、弘明はロッテルダム空港にいた。
急遽予定を変更してドイツへ向かうところだった。
忙しい中を宇佐美は車で送ってくれた。
午前中、弘明が入手した資料で一番くじを引いたとサルベージ会社から連絡が入り、弘明の面目躍如となったのだった。
「昨日はお宅へ呼んでいただいて、ご馳走様でした」
「いや、山岡が出張で来てくれて本当に助かった。この事は、俺から藤岡専務に電話を入れておくからな」
と言う宇佐美に、部長ではなくて藤原専務なのかと少し違和感を持つ弘明だったが、そこではスルーした。
前日、宇佐美は弘明を自宅へ呼んでくれた。最初は夕食をと言われたが、翌日ドイツへ向かうこともあり昼にしてもらった。予定変更は会社へファックスを入れたもののあくまで弘明が独断で決めたこと。
その辺の事情を宇佐美に言うと、お前も苦労するなと言われた。
どこか親分肌の古賀と違って、宇佐美は兄貴の様な存在だった。
二人に出会ってみて、出張前に会社で藤原専務から言われたことを弘明はあらためて考えてみた。
「ロンドンの古賀とロッテの宇佐美、いずれ二人は日本へ帰ってくる。どちらかが君の上司になるかもね……」
単に海外出張の社内規定で専務を訪ねた弘明に、いかにも思わせぶりな藤原だった。もう五十を幾つか超えている筈だが、ニヒルな顔立ちはヤクザ映画の俳優に似ていて、歯に衣着せぬ物言いで微笑む表情に凄みがあった。
(これは一種の昇進試験なのか?)
この年の春に主任の肩書を得た弘明だが、コンテナ関係の売上は月に五千万円を突破し、新造船の受注残も十隻を越えている。
上に吉岡次長はいるものの営業的には弘明が仕切らねばならない。来年の春には新卒を迎えて部が二十名を超える以上、組織の変革が予想される。
売上的には弘明の係がトップだが、課長昇進レースには他に年長のエンジニアが2名いてしのぎを削っている。
(船乗りなんかに造船所の営業が出来るものか)と、思うもの弘明は営業としてはまだ駆け出しであり、船員上がりの部長と軋轢も増している。
何かにつけて声を掛けてくれる藤原専務に対して、リスペクトすればするほど、村上部長や吉岡次長への反発を覚える弘明だった。
「お世話になりました」
「おお、あまり無理するな」
こうして弘明は一路ハンブルクへ飛び立つのだった。




