表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そしてヨーロッパ  作者: 船木千滉
26/40

第7話 (その2)

「なにか……ありましたでしょうか?」

「あんまり言いたかなかばってん、ちょっと酷か」

「えっ……1025番船の件でしょうか?」


「そうそう、ドイツの船主やけんGLの計算ば頼んだとさ、そしたら――そんなもの関係なかの一点張りやけん」


 普段は怒っても救いのある物言いをする人だが、今度の場合は取り付く島がない。吉岡の物言いが窺い知れた。またか、と思いながら弘明は話が終わるのを待った。


 吉岡は四十半ばで弘明より5年前に入社。それ以前は造船所の船殻設計にいたという。芙蓉では村上の下で戸塚とタグを組みコンテナ金物のエキスパートだった。弘明が技術的なノウハウを教わったのは、この吉岡だった。


 彼はなにしろ難しい人だった。戸塚の退職後、弘明は半年も経たない内に体調を壊した。出勤途中で連日腹痛を起こし途中下車でトイレへ駆け込む始末。医者で診てもらうと自立神経失調症と言われ、薬に頼ったのだった。


 だが仕事とは面白いもので、がむしゃらに働くことで吉岡の呪縛から逃れた。売上を伸ばす弘明に周囲の注目が集まり、その結果吉岡からの横槍は減った。ただ数字が全てとなるにつれ、組織は更に息苦しくなっていた。


 上にへつらい下にあたる吉岡の性癖は、顧客にも向けられた。なにしろ造船所よりも規則を熟知した吉岡は、上場企業の設計課長など歯牙にも掛けない。自分の言うことを聞けば良いと、何人をも寄せ付けないのだった。


「すみません、GLの方は私がなんとかしますので……」

 弘明は平謝りするしかなかった。


荒木課長は2年前、船主の紹介で弘明が初めて五井造船を訪ねた時、商社マンに用はないとけんもほろろ。だが誠実に話をする弘明に態度を変え、結果三千万円超の注文に繋がり、芙蓉貿易は五井に取引口座を獲得したのだった。そんなVIPを失う事は、組織として許される筈がなかった。


 事を納めて電話を切ると、さっそく五井から届いたファックスに英文で注釈をつけ、宇佐美に渡したのだった。芙蓉オランダの事務所で、弘明は懐かしい長崎の空を思い浮かべていた。


それは夢破れた船造りの仕事を、五井造船に委ねているのかも知れない。

二度と夢を失いたくないと思う弘明は、村上部長へのファックスを認めた。


] まず予定を変更してドイツへ向かうこと。

そして1025番船の売上は、恐らく五千万円を超えるとした。


(これで文句はないやろ)

と、腹を括る弘明だった。


(つづく)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ