第6話 「海抜0mの街」
空港からロッテルダム市内まで、宇佐美は古賀とは違い欧州製の大型自家用車で弘明を送ってくれた。
空港自体、よほど田舎にあるのかと思ったが、実際は風光明媚な公園に囲まれているだけで、ホテルまで車でほんの十数分の距離だった。
周りに高層ビルはなく、国土の四分の一が海抜0m以下というだけあって、どこまでも平たい。ただ国民性の違いか、空の暗さはロンドンと変わりがないのに、緑に覆われた大地はどこか朗らかに見えた。
「ロンドンは、たいへんだったらしいなあ……」
真っ直ぐな道を走りながら宇佐美が言う。
客ではないので助手席に座った弘明は、やはり右側通行の左ハンドルに戸惑っていた。アメリカではタクシーを使ったし、ロンドンは日本と同じだけに初体験でもあった。
宇佐美が切り出したA&Bの件は弘明も覚悟していた。
ただ話がどこまで広がるのか、思えば空恐ろしかった。
「昨日古賀から聞いたが、どうも裁判は長引きそうだな」
「私がいらん資料を見せたせいで、えらいことに……」
「まあしかし、問題の金物はうちの物ではないのだろ」
「ええ代替品を納入しただけで、元は他社の物です」
「実はなあ……村上部長からも電話があってな」
「えっ部長から……何か言われていましたか」
そう言いながら弘明は、気難しい部長の顔を思い出した。
弘明が芙蓉へ転職する際、村上部長が窓口だっただけに恩義がある。だが入社以来、どうにも掴み辛い人柄で、弘明は村上が苦手だった。最初は船乗りと造船屋の違いかと思った弘明だが、実際仕事で何かと衝突していた。
「いや、あの人が何を言いたのか、よく分らない」
「今回の件は、日本へ報告する時間がなくて……」
「いや確かに部長は写真を見せた事が問題だと騒いでいた。だが事故は芙蓉の物ではないし、結果的に写真はA&Bの瑕疵ではないという証拠になったんだろう?」
弘明に顔を向けて問い掛ける宇佐美に、弘明は答えた。
「はい、それは間違いないです」
「変だね、いったい村上部長はどこを見ているのか」
「今晩、電話を入れてみます」
「いやこれから出張に出るって、言っていたよ」
そうですか……と答えながら弘明は、また重荷が増えた様な気がして、思わず溜息をついてしまった。
帰国まで十日以上、だが先を思えば弘明は更に気が重かった。
(つづく)




