第6話 (その2)
ホテルに着いて車から荷物を下ろすと、宇佐美は、
「今日は宵積みの手配があるので、私はこれで引き上げる。明日の朝は9時に誰か迎えに来させるから」
と言うと、そのまま去った。
芙蓉オランダの社長は別の日本人だが、ナンバー2である支店長の宇佐美が暇である訳はない。空港で待たしただけに当然だった。
ホテルは市街地の中に立つ三階建て。周りに高いビルはなくホテル共々小ぢんまりしている。ただ穏やかなダークブラウンの外壁とは異なり、中へ入るとより原色に近い色合いで内装も近代的なデザインだった。
一人チェックインを済ませた弘明は心底ほっとしていた。
それは別に宇佐美のせいではない。
初めての長期出張は時間に追われ自由が利かない。そんな中でA&Bの問題が重なり、鬱憤を晴らす間もなく乗ったフライトで七転八倒、弘明は鬱積した疲れがピークに達していた。
だがホテルの部屋へ入って明日の朝まで自由だと思うと、いっぺんに気が楽になった。部屋もビジネスホテルにしては広さがあり、長身が多いオランダだけに天井高さは申し分ない。
まずは税関でごちゃごちゃになったバックの中身をベッドの上へ広げると、脱いだ下着を入れたビニール袋を出す。そこで着ている服を全部脱いで素っ裸になり、ビニール袋を取ってシャワールームへ。
バスタブがないのは残念だが、無暗に高い位置のシャワーヘッドからお湯を出し、温度調節した上で頭から被る。
これが出張中、弘明に取っては唯一無二の時間だった。
頭を洗い終わると汚れた下着を出して石鹸で洗い、そのまま下着で体を洗う。綿や化繊の下着の感触は今一なのだが、一石二鳥を思えばこの上もない。
恐らく皆同じことをすると思うのは、ウォッシュベイシンが赤子の産湯に使えるほど大きいのだ。
体を洗った下着を放り込むとお湯で濯ぎ、あとは絞って干すだけ。間仕切りの桟やワードローブのハンガーを使って朝まで掛けておく。
とかく乾燥し易いホテルの部屋は、こうやって湿度も保てることになる。だが最も大切なことは、何も考えずに目先の事に集中して体を動かす。これで弘明は長い出張中でも、リフレッシュが出来るのだった。
夜は一人でホテル一階のレストランへ行き、街灯の光に浮かび上がる街路樹が見える窓際で食事をした。ドライワインを一杯頼んで、味はともかく肉で腹を満たせば、何はなくとも一時の幸福を感じる弘明だった。
(つづく)




