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【中編】メゾン・ド・異世界〜祖母の遺言で異世界に繋がるアパートの管理人になった私は今日も魔王や勇者や未来人に振り回される〜  作者: 久芳 流


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第5話

 翌朝。


「ねぇ……本当にこれで来るの?」


 私は箒を持ちながら六花にそう聞く。


「大丈夫大丈夫。必ず来るよ。絶対。いや、たぶん。おそらく」


「だんだん確度が下がってるじゃん」


「私も疑問ね……ほんとに来るのかしら?」


 私が呆れつつため息を吐くと、後ろにいたユウカちゃんも疑念の声を発する。

 まぁユウカちゃん自身が一番疑心暗鬼だろう。

 私の首元にある剣にも心なしか迷いを感じる。


 まったく六花もよくこんなことを思いつくものだ。


「——まさか境歌を人質にとって魔王を誘き寄せるなんて……」


 ユウカちゃんが呆れたようにため息を吐いた。


 そう。今、私はユウカちゃんに人質に取られている。

 もちろん〝ふり〟だ。本気じゃない。

 六花曰く、私が危険な目に遭えば必ずマオさんは来るらしい。


(そんな単純に行くかな?)


 マオさんと私の付き合いなんて、ただ出会ったら挨拶をするくらいだ。

 まぁたまにマオさんから「土産だ」って言われて異世界の品をくれるけど。それくらいの仲だ。

 いくらなんでも無理がある。


「まぁどうでもいいけど……とりあえず日課の掃除をしながらでいい?」


 私はそう言うと、首に剣がある状態で——我ながら呑気に掃き掃除を始めた。

 なぜだかわからないんだけど、毎日やっていないと気持ち悪いんだよね。


 おばあちゃんの形見の箒は握り心地がすこぶるいい。

 最初もらった時から私がしたいように動かせるし、埃や木の葉も綺麗に掃ける。

 なんなら家の掃除機よりも効率がいい気がしている。

 だから、というわけではないけれど、この箒のことは割と気に入っている。


「……やっぱり来ないじゃない!」


 一通り掃除が終わった後。

 痺れを切らしたユウカちゃんが叫んだ。

 ——そりゃそうだ。私を人質に取ったところでマオさんが来るはずがない。

 六花以外の全員がわかっていた。


「あっれ〜? おかしいなぁ……」


 六花は、それでも、首を傾げて不思議そうな顔をしている。


「聞いた話だと、来るはずなんだけど」


「聞いたって誰からよ……?」


 呆れながらユウカちゃんがため息を吐く。


「んー。殺気……? あ。殺気が少ないからかな。

 ユウカちゃん、境歌ちゃんを本気で殺すつもりでやってよ」


「はぁ?」


 閃いたように言う六花の言葉にユウカちゃんは訝しげに睨む。

 私もそれには首を振る。


「殺すつもりって……さすがに物騒すぎじゃない? マオさんだって来ないよ」


「いやいや。とりあえず試してみないとわからないじゃん?

 お願い! これでダメだったら諦めるから」


 手を合わせて精一杯頼み込む六花。

 そんな彼女にユウカちゃんは大きくため息を吐くと、


「はぁ……仕方ないわね。……——これでいい?」


 彼女の雰囲気が一気に変わった。

 背中がゾワゾワして冷たく、私を抑えつける力が上がった。

 さっきまで全然恐ろしくなかった剣も、今は本当に首を刈り取られそうで震えが止まらない。

 ユウカちゃんだから大丈夫だとは思うけれど、正直怖い。痛い。寒い。


 自然と私の目尻から涙が滲み出てきて————。


「————ッ!!」


 106号室の扉が爆発したかのような轟音を奏でて開き、煙の奥から——魔王が現れた。


 いつものTシャツ短パン姿じゃない。

 立派な装飾を施され、格式高い黒い羽織を着ている。

 長く鋭い角が二本生え、金と赤の瞳が獰猛な獣のように光り、鋭い牙が見えていた。


「——なにをしている?」


 どす黒い感情を込められた低く冷たい声。

 マオさんは静かに怒りを灯していた。

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