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【中編】メゾン・ド・異世界〜祖母の遺言で異世界に繋がるアパートの管理人になった私は今日も魔王や勇者や未来人に振り回される〜  作者: 久芳 流


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第11話

「『瘴気は私ではない』? ってどういうことですか? マオさん」


 マオさんの口から思わぬ発言が飛び出てきて、私は首を傾げた。


「要するに、逆なんだ。管理人」


「逆? よくわからないんですけど……」


「はぁ……全く口下手なんだから」


 マオさんのわかりづらい説明にユウカちゃんが大きくため息を吐く。


「そんなんでよく魔王が勤められるわね。

 私から説明してもいいかしら?」


「……頼む」


「全く……つまりね。境歌。

 瘴気もね。——魔王が出しているものじゃなかったのよ」


「!? そうなんですか?」


 私は目を丸くして聞き返す。


「魔王の話だと、私達の世界には、瘴気を発生させる孔が至る所にあるそうよ。

 といってもごく少量。すぐに散っちゃって日常生活には問題ないほど。

 でもたまにね。瘴気がうまく散らずに溜まってしまう時があるみたい。

 そうなってしまうと人を襲う魔物が発生するようになる」


 ユウカちゃんはそこで一度言葉を切った。


「魔王はそういう瘴気が溜まった場所を見つけると、そこへ行って瘴気を散らしているそうよ。

 魔物がいれば退治もする。

 実際、魔王城の周りは、私達の国よりも瘴気がなかった。

 それに魔族や魔物も穏やかだったわね」


「じ……じゃあ、ユウカちゃんが子供の頃、見たって言う魔王も……?」


「瘴気を出していたわけではなく、むしろ村を襲っていた魔物を倒していたってことになるわね」


 ユウカちゃんは疲れたようにため息を吐いた。


 つまりマオさんはユウカちゃんの故郷を滅ぼすつもりはなかった。

 むしろそこで生まれた魔物や瘴気をなんとかしようとしていたのだ。


 私はマオさんの方を向く。


「そうなの? マオさん」


「あ……あぁ。だが、手遅れだった」


 マオさんの雰囲気からは無念さが滲み出ていた。


「勇者の故郷から瘴気が発生した日は今でも覚えている。

 瘴気の探知を得意とする私の部下によると急に瘴気が現れたそうだ。

 瘴気を散らすのは魔王である私にしか出来ない。

 だが、勇者の故郷は私の城からだいぶ遠くにあった。

 着いた時にはこの勇者以外全員が……魔物に襲われ殺されていた」


「そんな……」


 でも、だったら、どうしてユウカちゃんにそのことを伝えなかったのか。

 そうすればマオさんとユウカちゃんがここまでいがみ合うことはなかったのだ。

 そう聞くと、ユウカちゃんが言った。


「それも教会の差し金ね」


 ユウカちゃんのパーティーメンバーであるマイさん。

 そのマイさんが所属する教会のことだ。

 それとなくユウカちゃんを煽り、騙り、怒りを大きくさせ。

 ユウカちゃんに魔王への大きな敵対心と復讐心を持たせた。

 そんなユウカちゃんがマオさんの言葉を聞くわけが——聞けるわけがない。

 そうなるまで教会は——時にはマイさんを使って——ユウカちゃんを影で操ったのだ。


 ——戦争を長引かせるために。


「……ひどい」


 その話を聞くと、六花が顔を顰めてそう呟いた。

 私も同じ気持ちだ。


 だが、ユウカちゃんはそれ以上にショックを受けているのだろう。

 信じていた仲間に裏切られ、敵だと思っていた人が敵ではなく、怒りの矛先を見失った。


 だからユウカちゃんはあんなにも疲れた表情を見せているのだ。

 魔王城でユウカちゃんはどんな想いでこの話をマオさんから聞いていたのだろう。


「……それで?」


 ユウカちゃんがマオさんの方を向いた。


「どうしてこの世界に魔物が出たの? 瘴気?」


「このアパートの床下に孔があった。おそらく私と……キキョウのせいだ」


「おばあちゃんの……?」


 私の言葉にマオさんは頷いた。


「キキョウが故郷に帰る時、私も手伝ってこの世界へのゲートを作ったのだ。

 そのゲートを使いキキョウは帰ることができたのだが、その余波で孔も出来てしまったらしい」


「え……? でも待ってください」


 私はマオさんの説明を止める。


「おばあちゃんが帰ってきた時ってことは、孔が出来たのって随分前の話ですよね?

 てことは瘴気もかなり溜まっていたはずじゃないですか?

 でも魔物なんてさっきまで一度も見たことがないです!」


 いくら瘴気が少ししか吹き出さないからといっても『塵も積もれば——』だ。

 けれど私が小さい頃も、そして管理人になってからも一度も魔物なんて現れなかった。

 たまたま今日が、魔物が産まれるほど溜まり切ったという可能性もあるけど。

 それでも何らかの異変があったはずだ。


 そう聞くと、マオさんは顔を顰めて申し訳なさそうに目を逸らした。


「それはキキョウの箒のおかげだ」


「おばあちゃんの箒……?」


「先ほどの瘴気の発生で思い出した。

 あれは瘴気を散らし浄化する箒だった。こっちに戻った後、キキョウが製作したんだろう」


「おばあちゃんが……?」


「こっちの世界に混乱を齎さないためなのだろう。

 このアパートもそうだ。アパートを依り代にして結界を作り、瘴気を外に漏らさないように防いでいたのだ。

 ……そのおかげで他の世界とも道ができてしまったようだが、な」


 とマオさんは六花を見た。


「だが、それも後三年。この世界には魔素が存在しない。

 故に孔も小さくなっていた。後三年で消失するだろう」


「あ……だから」


 私は納得した。


『境歌ちゃん。高校卒業まででいいから、このアパートで毎朝掃き掃除してくれない?』


 つまり瘴気が無くなるまで箒で散らしてほしい。

 おばあちゃんの遺言は、そういうことだったのだ。


「ならそうやって説明してほしかったな……」


「んーでもそう説明されたら、しなかったんじゃない? スピ過ぎて」


「確かに」


 六花の言葉に私は大きく頷いた。

 今だったら信じられるけど、当時だったら半信半疑で結局掃き掃除をしなくなっていたかも。

 毎朝起きるのだって辛いしね。


「でも。だったらこれからどうするの?」


 六花が首を傾げる。


「どうするって?」


「いや。瘴気はまだ発生しているわけでしょ? でも箒はなくなっちゃったじゃん」


「あ……」


 確かにそうだ。

 おばあちゃんの箒がないと瘴気は散らせない。

 でも残り三年は瘴気が発生し続けるのだ。


 何もしなければまた魔物が出てしまう。


「——あら。そんなの簡単じゃない」


 私達が悩んでいると、ユウカちゃんがマオさんを指差した。


「魔王にやらせればいいのよ」


「む……? 私が?」


「当然よ。魔王は瘴気を散らせる。そしてこのアパートに自由に行き来できる。

 それくらいわけないでしょ?」


「いや……だが、私がいては迷惑だろ。それに公務も——」


「箒を壊したのはあなたでしょ? それくらい責任取りなさいよ」


「んぐ……!」


(……ユウカちゃんも原因ではあるんだけれどね)


 マオさんの困った顔が珍しいから言わないけど。


「あ! ほんとそれがいいね!」


 そして何故か六花もそのユウカちゃんの提案に目を輝かせながら頷いた。


「瘴気も散らせるし、それにマオさんも——」


 そう言うと、六花はマオさんの耳元で何かを囁く。


「——ッ!! なッ! なにを!!」


 するとマオさんが今度は顔を真っ赤にさせて動揺する。

 いったい何を言ったのか?

 でもこんなにもマオさんの表情がコロコロと変わる日はないから、別にいいけど。


「あはは。でもいいでしょ? ね? ね?」


 六花は私とマオさんを交互に見る。


「いや。だが私が毎朝いては管理人に迷惑じゃ……」


「別に私はいいですよ」


「! い、いいのか……?」


 マオさんは気まずそうに私にそう問う。

 むしろどうして迷惑だと思ったのだろう。


「え? はい。マオさんがよければ。

 あ、でも責任とかうんぬんとかはなしにしてください。

 もう謝罪は受け入れているんで」


「…………はぁ。管理人には敵わんな」


 マオさんは大きくため息を吐くと、


「わかった」


 と頷いた。

 こうしてマオさんは私のアパートの瘴気を毎朝散らすことになった。


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