エピローグ
翌朝。
「あ、おはよー」
私がアパートで掃き掃除をしていると、いつものように六花が現れた。
「おはよう。六花」
「あれ? マオさんは?」
「今、庭で作業しているよ」
「そっか。よかったぁ」
ん? どうして六花が胸を撫で下ろしているのだろう。
「いやぁ。もしかしたら来ないかもって思ったからさ」
「マオさんはそんな人じゃないでしょ。一応、魔王なんて責任ある役職に就いているんだから」
「いや。まぁそうなんだけどね~……フフフ……」
「なんか怪しいな……」
私はジト目で六花を見るが、六花はそんな私の反応でさえ、楽しげに見ていた。
「管理人。終わったぞ」
そう話していると、マオさんが庭から出てきた。
「あ、ありがとうございます」
「いや……いい」
マオさんは何故か気まずそうに目を逸らす。
「? なにかありましたか?」
「いや。何も問題はないぞ」
「ん~? じゃあどうして目を合わせてくれないんですか?」
「……合ってるだろ」
「いやいや。全然。これっぽっちも合ってませんって」
「そうか? だが、合わなくても何も問題ないだろ」
確かにそうだけど。
なんか気に食わないなぁ。
「あ、マオさん。あそこに瘴気が」
そう言って私はあらぬ方向を指差す。
「——! 本当か? すまない! すぐ駆除を……」
「隙あり!」
マオさんが振り向いた瞬間、私はマオさんの顔をガッと掴んで、目を合わす。
金と赤の綺麗なオッドアイが見えた。
それが嬉しくてつい微笑んでしまった。
「……やっと目を合わせてくれましたね?」
「ば……バカなことを……!」
マオさんは顔をぶるぶる振って、私から離れる。
ちょっと残念。
「おぉ~……積極的ぃ……」
端で六花が口を手で抑えて顔を赤らめている。
ん? どうして……?
って思ったが、マオさんも口を抑えていて耳が赤くなっていた。
それを見て、私もつい恥ずかしくなってしまった。
「あ、その……すみません」
「いや。いい。こっちこそすまん」
どことなく気恥ずかしく気まずい空気が流れる。
これは何か話を変えないとまずい気がする。
「あ」
「あ」
そう思って口を開くが、マオさんと被ってしまった。
「まったくしょうがないなぁ……」
その空気を変えるように六花がマオさんの後ろに立った。
「マ、境歌ちゃん! マオさん、何か言いたいことがあるらしいよ」
「言いたいこと?」
私は首を傾げる。
「なんですか?」
そう聞くと、マオさんは気まずそうに顔を顰め目を閉じた。
少しモゴモゴと口を動かし、手をワキワキと動かしていたが、やがて大きくため息を吐くと、
「……魔王城の近くに新しい店が出来たんだ……」
と口をゆっくりと動かした。
「その店はゲテモノ専門の店らしくてな。つい先日招待をうけたんだが……よかったら……」
「ゲテモノ……!!」
私はその言葉を聞いた瞬間、マオさんに飛びついた。
「マオさんのお土産にあるようなやつですよね!? それって私も行っていいんですか? ていうか連れてってください!」
「あ……あぁ。いいぞ。むしろそのつもりだった……」
「やった! ほんとですね! ぜひぜひ!! なんなら今日でもいいですよ!」
「え……だが、学校が……」
「学校なんて休みます! ゲテモノが食べられるなんて! あぁ楽しみ!」
「あ、じゃあ……わかった。行くとするか」
私に気圧されるようにマオさんは頷く。
あぁ。異世界の料理か。
いったいどんなものがあるのか。
楽しみで仕方ない。
「じゃあ早速行きましょう! 六花。学校のことは頼んだ!」
「任された!」
六花は全ての指をくっつけて手を額に付けて笑った。
私はマオさんの背中を押して、マオさんの部屋——106号室に向かう。
「ちょっ……管理人。押すな押すな。わかったから! 落ち着け!」
マオさんは慌てたようにそう言うが私の頭にはもう届かなかった。
「ゲテモノ♪ ゲテモノ~♪」
そう言いながら私達は106号室に消えていった。
★★★
その後。
「——まったく世話が焼けるんだから。ママとパパは……」
そう言ってヘッドホンを外した六花の頭に角が見え隠れしていたのを、私はまだ知ることはなかった。
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