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風を測るー梁末紀行ー  作者: サメ


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第五話 空の倉

青柳駅を出て三日後、一行は北州の南端にある河原の町へ着いた。

名を安河という。

大河から分かれた支流が流れる、小さな宿場町だった。

だが町へ入った瞬間、沈遙は違和感を覚えた。

人が少ない。

収穫の終わる季節なら、本来は荷車が行き交い、市場も賑わっているはずだった。

しかし通りは静かだった。

店を開けていても客の姿がない。

「変だな」

趙万が呟く。

「去年はもっと活気があった」

隊商は町の倉庫へ荷を運び始めた。

沈遙は宿を取る前に市場を歩いてみることにした。

しばらく歩くと、一人の老婆が野菜を並べているのが見えた。

売り物はわずかだった。

沈遙は話しかける。

「今年は不作だったのですか」

老婆は苦笑した。

「畑は普通だったよ」

「では商いが減った?」

「商いは減った」

「なぜです」

老婆は辺りを見回した。

そして声を潜める。

「税だよ」

沈遙は黙って耳を傾けた。

「去年より増えたんだ」

「凶作でもないのに?」

「北の守りを固めるとか何とか」

老婆は鼻を鳴らした。

「守ってもらえるのはありがたいさ。でも腹が減ったら人は生きられない」

その言葉は重かった。

夕方、沈遙は町外れまで歩いた。

そこには大きな穀物倉が並んでいる。

役所の管理する官倉だった。

驚いたのは、その前に長い列ができていたことである。

老人。

女。

子供。

皆、黙って順番を待っている。

近くにいた男へ尋ねる。

「これは何の列です」

男は疲れた顔で答えた。

「借りるんだ」

「何を」

「米を」

沈遙は眉をひそめた。

収穫直後である。

本来なら農民の家に穀物がある時期だ。

「返せるのですか」

男は笑った。

乾いた笑いだった。

「返せなければ畑を失う」

それだけ言うと列へ戻っていった。

日が沈み始める。

赤い光が官倉の壁を染めていた。

沈遙はしばらくその光景を眺めていた。

不思議なことだった。

都へ送られる報告では北州は豊作だったはずである。

それは嘘ではないのだろう。

畑も実っていた。

飢饉でもない。

それなのに人々は米を借りている。

数字だけでは見えない何かがあった。

その時だった。

「都から来た人か」

後ろから声をかけられる。

振り向くと老人が立っていた。

痩せた農夫だった。

「そうですが」

老人は官倉を見つめたまま言った。

「役人なら覚えておくといい」

沈遙は返事をしなかった。

老人は続ける。

「腹が減った民は最初は耐える」

風が吹く。

乾いた土の匂いがした。

「次に諦める」

老人の目は暗かった。

「そして最後に怒る」

言葉を残し、老人は去っていった。

沈遙はその背中を見送る。

夕陽はすでに地平線へ沈みかけている。

官倉の列はまだ消えていなかった。

その夜、宿へ戻った沈遙は旅の記録帳を開いた。

そして初めてこう書き記した。

『報告に偽りなし。されど真実なし』

筆を置く。

外では風が鳴っていた。

帝都で聞いていた風とは少し違う音だった。

北の風は冷たく、どこか人の不満を運んでいるように聞こえた。

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