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風を測るー梁末紀行ー  作者: サメ


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第三十五話 夜の渡し場

その夜、沈遙たちは川の上流へ向かっていた。

同行しているのは柳月、趙万、それに昼間話をしていた船頭たち三人である。

月は出ていた。

だが雲が多く、辺りは薄暗い。

川沿いの道を歩くことしばらく。

やがて船頭の一人が足を止めた。

「あそこだ」

前方には小さな桟橋が見えた。

確かに古い。

板は傷み、杭も傾いている。

今は使われていないという話に納得できた。

「暗いと、少し不気味ですね」

沈遙が言う。

「だから皆、夜にしか来ないんだよ」

船頭が笑いながら答えた。

一行は少し離れた場所に身を潜めた。

川の流れる音だけが聞こえる。

時間が過ぎる。

何も起きない。

「やっぱり幽霊なんていねえじゃねえか」

趙万が欠伸をした。

「静かにしてください」

沈遙が小声で言う。

「先生の方が乗り気だな」

柳月が笑った。

さらにしばらく待った。

すると。

「あれだ」

船頭が囁いた。

川の向こう岸だった。

小さな灯が揺れている。

沈遙は目を凝らした。

確かに灯だ。

一つではない。

二つ。

三つ。

ゆっくりと動いている。

「人ですね」

沈遙は言った。

「だからおかしいんだ」

船頭が答える。

「あそこに村はない」

灯は川辺へ集まっていく。

やがて一つが消えた。

次にもう一つ。

残った灯も見えなくなる。

辺りは再び闇に包まれた。

「消えたな」

趙万が呟く。

沈遙は首を傾げた。

幽霊には見えない。

だが不自然なのも確かだった。

「近くまで行ってみませんか」

その提案に船頭たちが顔を見合わせる。

「今からか」

「気になるでしょう」

沈遙は真面目に答えた。

趙万が笑い出した。

「先生、お前は本当に役人か」

結局、一行は渡し場へ近付くことになった。

古い桟橋へ降りる。

板がぎしりと鳴った。

川面は黒く沈んでいる。

誰もいない。

灯の痕跡もない。

沈遙は周囲を見回した。

その時だった。

足元に何かが落ちていることに気付く。

小さな布切れだった。

拾い上げる。

新しい。

最近落ちたものらしい。

「どうした」

柳月が尋ねた。

沈遙は布を見せた。

船頭たちも集まる。

その瞬間、一人の船頭が眉をひそめた。

「これ」

「見覚えがあるのか」

趙万が聞く。

船頭は少し考えた。

「たぶんだが……」

「昼間、河岸にいた商人が着てた服と似てる」

沈遙は布を見つめた。

幽霊ではない。

少なくとも人間はいる。

その確信だけは生まれた。

だが、なぜ夜中に誰も使わない渡し場へ来るのか。

それはまだ分からない。

川の向こうでは風が草を揺らしている。

沈遙は布切れを懐へしまった。

そして誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

「もう一度来る必要がありそうですね」

その言葉に、柳月だけが静かに頷いた。

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