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風を測るー梁末紀行ー  作者: サメ


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第二十九話 草原の祭

翌朝、一行はさらに北へ進んだ。

昼を過ぎる頃には街道も細くなり、見渡す限りの草原が広がっていた。

風は強い。

草が波のように揺れている。

「もうすぐだ」

趙万が前方を指差した。

遠くに白い点がいくつも見える。

近づくにつれ、それが天幕だと分かった。

草原の集落だった。

沈遙は思わず足を止める。

都で見たことのない景色だった。

円形の天幕が並び、その周囲には馬や羊がいる。

子どもたちが走り回り、女たちは乳を煮ていた。

男たちは馬の世話をしている。

「どうだ」

柳月が笑う。

「驚いたか」

「ええ」

沈遙は正直に答えた。

「まるで別の国のようです」

「実際、暮らし方はかなり違うからね」

その時だった。

聞き覚えのある声が響く。

「都の人間!」

振り向くとバルグだった。

宿場で会った草原の商人である。

大きく手を振りながら近づいてきた。

「また会いましたね」

沈遙が頭を下げる。

バルグは豪快に笑った。

「本当に来るとは思わなかった」

「私もです」

二人のやり取りを見て趙万が笑う。

「知り合いだったか」

「少しだけな」

バルグは答えた。

一行は歓迎を受け、その日は集落に泊まることになった。

荷の取引は明日から始まるらしい。

夕方になると、集落の中央へ人々が集まり始めた。

若者たちは旗を立て、女たちは歌を歌っている。

「何かあるのですか」

沈遙が尋ねる。

バルグはうなずいた。

「春の祭りだ」

「祭り」

「冬を越えたことを感謝する」

沈遙は興味深そうに眺めた。

どこの土地でも春は特別なのだ。

北陵の春の市もそうだった。

やがて人々の歓声が上がる。

集落の奥から一頭の白馬が現れた。

見事な馬だった。

夕日に照らされた毛並みは銀のように輝いている。

周囲の人々は自然と道を開けた。

誰もがその馬へ敬意を払っている。

沈遙は少し不思議に思った。

「立派な馬ですね」

「神馬だからな」

バルグが答える。

「神馬ですか」

「昔から祭りの日に先頭を歩く」

沈遙はうなずいた。

詳しい意味までは分からない。

だが特別な存在であることだけは伝わってきた。

白馬は静かに歩いていた。

ところが、その時だった。

どこかで子どもの叫び声が上がる。

人々が一斉に振り返った。

一人の幼い男の子が、人混みを抜けて白馬の進路へ飛び出していた。

母親らしい女が悲鳴を上げる。

白馬が驚いて前脚を上げた。

沈遙の身体が反射的に動く。

考えるより先に足が出ていた。

「危ない!」

沈遙は子どもへ駆け寄る。

あと数歩。

手を伸ばせば届く距離だった。

周囲の空気が一瞬だけ張り詰める。

誰かが何かを叫んだ。

だが沈遙には聞こえなかった。

目の前には子どもと、前脚を振り上げる白馬しか見えていなかった。

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