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風を測るー梁末紀行ー  作者: サメ


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第二十六話 小さな村の夜

村へ着いた頃には、空は赤く染まっていた。

隊商の到着を待っていたかのように、何人もの村人が広場へ集まってくる。

柳月と趙万は慣れた様子で荷を下ろし始めた。

「塩はあるか」

「布も見せてくれ」

「去年と同じ茶は持ってきたか」

次々に声が飛ぶ。

沈遙はその様子を少し離れた場所から眺めていた。

町の市場とは違う。

ここでは隊商が来ること自体がひとつの出来事なのだ。

荷が並ぶたびに人々の顔が明るくなる。

老人は杖をつきながら品を見て回り、子どもたちは珍しい品を見つけては歓声を上げていた。

「先生」

趙万が声を掛ける。

「暇なら運ぶの手伝え」

「暇ではありません」

「何してる」

「見ています」

趙万は呆れた顔をした。

「役人ってのは楽な仕事だな」

沈遙は苦笑した。

しばらくして荷下ろしが終わる。

村長の家が今夜の宿だった。

質素だが広い家だった。

食卓には煮込み料理と黒いパンが並ぶ。

村長は白髪混じりの男だった。

「遠いところをようこそ」

「お世話になります」

沈遙が頭を下げる。

食事が始まると、自然と話は今年の春のことになった。

雪解けの時期。

作物の出来。

羊の数。

都ではまず聞かない話題ばかりだ。

「今年は悪くない」

村長が言った。

「去年よりはな」

「それは何よりです」

沈遙が答える。

すると村長は少し笑った。

「役人さんは変わってるな」

「そうでしょうか」

「税の話をしない」

食卓に笑いが起きた。

沈遙もつられて笑う。

「私は税を取りに来たわけではありませんから」

「なら歓迎だ」

村長は豪快に笑った。

夜も更ける頃、沈遙は家の外へ出た。

空には無数の星が輝いている。

都では見られないほどの星空だった。

思わず足を止める。

天文台で働いていた頃を思い出した。

星の動きを記録し、暦を作る日々。

今では遠い昔のように感じる。

「先生」

後ろから声がした。

柳月だった。

「眠れないのかい」

「少し散歩です」

柳月も空を見上げた。

「綺麗だね」

「ええ」

しばらく二人で星を眺める。

やがて柳月が言った。

「都へ戻りたくなることはないのかい」

沈遙は少し考えた。

「あります」

「だろうね」

「ですが」

沈遙は夜空を見上げたまま続ける。

「今はもう少し旅をしてみたいと思っています」

柳月は意外そうな顔をした。

「役人の口からそんな言葉を聞くとは思わなかった」

沈遙は笑う。

自分でも少し意外だった。

北陵へ来る前は、ただ命令に従って旅をしているだけだと思っていた。

だが今は違う。

知りたいことが増えている。

見たい景色も増えている。

風が静かに吹いた。

遠くで犬の鳴く声が聞こえる。

村は静かな夜に包まれていた。

沈遙は記録帳を開く。

『隊商の来訪を村人喜ぶ。人と物を繋ぐ道は、町と村を繋ぐだけではない。』

そう書き終えると、そっと帳面を閉じた。

明日もまた、新しい土地の朝が待っていた。

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