第98話 「存在」
「ユウビ、すまなかったな。本気で殴ってしまって」
「いえ、こちらこそ試すような真似をしてすみませんでした。」
お互いの顔を見合わせ、微笑んでいる二人。
「二人とも動かないでください。治癒が進まないですから」
闘技場にて開催されたこの二人の戦闘は引き分けという形で終わった。
肉弾戦が始まってからどちらかが降参するまで終わらない戦いであったが、両者の負けず嫌いなのもあり結局、マスターの介入で初めて中断したのだ。
地下闘技場の倉庫で今は負傷している二人の治癒をしているというわけだ。
「ユウビ、私達は北西へ向かう許可を貰えたって事でいいんだな?」
治癒を受けながらユウビに話しかける。
「もちろんです、私と引き分ける実力を証明いただいたので」
「そりゃ良かった」
「それにしても、フェリスさんのこれは魔法…なのでしょうか?お会いした時からでしたが、フェリスさんは魔力をお持ちではないですよね?」
「あの…これは…」
シルフさんに目配せすると、大丈夫だと小さく頷いてくれた。
「この見た目で気付いているかと思いますが、私はノアの一族です。その一族のみが持つ魔力ではない力……それを使っています。」
「魔力ではない力…ですか?」
「"呪力"と…私の母はそう呼んでいました」
「"呪力"ですか…それなら辻褄が合いますね、治癒に関した魔法は未だ確認されていないですし…ちなみにその方は?」
「え?」
どうやら、肩に乗っていたラズリの事のようだ。ドラゴン…とは言えないのでトカゲで通しておこう。
「この子はトカゲのラズリと言って、私の大切な…」
…ラズリは、私にとってなんだろうか……
もちろん大切な存在だ。
友人?仲間?
それでは言い表せないような存在…
「私の大切な"家族"です」
「そうだな、二人はいつも一緒にいるからな」
「そうですか、良いですね」
「ね、ラズリ……え?」
肩に乗るラズリを見た時、思わず言葉に詰まってしまった。
ラズリの瑠璃色の小さな瞳から一滴の涙が零れていた。
「ラズリ、泣いてるの…?」
問いかけたがすぐにその顔を小さな手で擦り、何事も無かったように肩の上で眠りについてしまった。
「ラズリさんは、どこか不思議な力を感じますね。獣とは違う何か別の存在のような…」
ユウビがラズリを見つめながら首を傾げている。
「そ、そうですか?あはは…」
「お、いたいた」
濁しているとマスターが倉庫に入ってきた。
「怪我は大丈夫そうか?北西へ行く前に一つ依頼を任せたいのだが…」




