第97話 「魔消」
地下闘技場に野次馬が大勢集まり始め、次第に騒がしくなってきた。
闘技場の中心に相対しているシルフさんとユウビさんが静かに睨み合いしている。
「大丈夫かな、シルフさん…」
ラズリに問いかけるが、表情はそこまで心配していない様子だ。
「ごめんねラズリ、ちょっと騒々しいかも」
それよりも周囲を見渡して熱量の高い野次馬達に驚いているのかもしれない。
「なぁ、どっちが勝つと思うよ」
「あの隻腕の女、『東風のシルッフス』だろ?もしそうならユウビちゃんにはちょっと厳しいんじゃねぇか?」
「いやいや、ユウビちゃんなら大丈夫なはずだ。なんたってこのギルド随一の…」
ガヤ騒ぎでうまく聞き取れなかったが、『東風のシルッフス』という単語は聞こえた。
シルフさんはそんな風に呼ばれているのか…?
「お、始まるぞ!!」
ガヤの一声で闘技場に視線を向ける。
「エウロスト〈風よ〉ッ!」
シルフさんの展開した魔法陣から暴風が吹き荒れ、ユウビさんの周囲を乱している。
恐らく身動きを取りづらくして次の攻撃を当てやすくするためだ。
「いくぞ、トゥルビネーテ〈旋風斬〉ッ!!」
「シルフさん…」
本気で攻撃している…もしその魔法が直撃でもすれば、ユウビさんは命に関わるというのに…
「本気ですね、ならこちらも…………」
ユウビの手から白い魔法陣が展開され、向かってくる風にかざしている。
「エタンドレーテ〈消滅せよ〉」
その魔法陣が白く輝いた瞬間、シルフの放った魔法がユウビに到達する前に跡形も無く消えたのだ。
「なに?」
「シルフさんの魔法が…消えた…?!」
「いきなり出たなユウビちゃんの"魔消魔法"!」
「でも最初から使ったということは、一筋縄ではいかないと認めたってことか」
「まぁあの隻腕の女も思い知っただろうよ、『ホワイトヴァイス』最強とも呼び声高い『魔消のユウビ』の事をよ」
魔消のユウビ…
シルフさんのような二つ名を持っている人…
私の知る限り、アウルにマテリアやフォルテさん、シルフさん達のような相当な実力を持っている人が二つ名で呼ばれている…
ということは、このユウビさんもかなりの実力者…
「なるほどな…魔力消滅の使い手か」
シルフが今までの円形型とは違う、三角型の魔法陣を三重に連ねて展開した。
「少し本気でいく、オスト・ヴィンスレット〈東風の韋駄天風斬〉ッ!!」
一目でわかった。
今までの威力とは桁が違う超攻撃的な魔法だ。
「すぅっ…エタンドレーテ〈消滅せよ〉ッ!!」
大人しかったユウビさんが声を荒らげて消滅魔法を詠唱している…
同じく三角型の白い魔法陣を三重に連ねて発動すると、シルフさんの超攻撃魔法を打ち消した。
「ここまでの実力とは厄介だ、だが…」
シルフはもう一度風の魔法陣を展開させて、ユウビにかざした。
「無駄ですよ、学んでください」
白い魔法陣で消滅しようと準備をするユウビを見て、シルフは不適に笑った。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
展開し続けていた魔法陣を中断させ、シルフがユウビに向かって一気に距離を詰めた。
「随分と無鉄砲な方ですね…」
魔法が使えないならと瞬時に肉弾戦に持っていくシルフ、片腕の拳を握り締め容赦なくユウビへ打ち込むと、野次馬から驚いた声が響き渡る。
「入ったか?!」
「いやいや大丈夫だって、ほら」
ユウビはシルフの重い拳を顔付近で片手一つで防いでいた。
「なんだい、両手は使わないのかい」
「それでは不公平ですから」
「言ってくれるねぇ、久しぶりに本気の本気を出せそうだぁっ!」
肉弾戦が始まると、野次馬からの盛り上がる大歓声で闘技場が揺れた。




