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幸福のフェリス  作者: 海野 咲凛木
第四章 セレニス大陸編

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第89話 「現実」


正面から歩いてきていた荷車を引く三人組の男とすれ違ったその瞬間…


「やはりな…シュタムヴィルテ〈狂風乱撃〉ッ!!」


「なんだ…?!ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


三人組の足下に現れた魔法陣から暴風が乱れるように発生し、男達は荷車を置いて吹き飛ばされた。


「ちょっとシルフさん!?」


「ぐぅっ…いきなり何をしやがる!!!」


吹き飛ばされた男達が懐からナイフや鉈を取り出し、シルフへ剣先を向けた。


「その荷車を置いていけ」


「荷車って…あっ…」


男達の引いていた荷車を見ると、中には角を折られ、瀕死になった数頭のロールホーンとその角が積まれていた。


「ひどい…どうして…」


「さっき言っただろう、ロールホーンは角を打撃武器として使うと…その角は私達人間も加工せずにそのまま武器としても利用できるから密猟者に狙われる。だからこのロールホーンの狩猟は"大陸規定"で禁止されているはずだ」


荷車にいるロールホーン達は今にも力尽きそうだ…全身に血が滲んでいるのを見ると、恐らく角を折られる前に痛め付けられて…


「その瀕死のロールホーン達はどうするつもりだったんですか…」


「あ"ぁ"っ?!お嬢ちゃんには関係の無いことだ!!」


三人組の一人が威嚇するように声を荒げている。


「大方、この先の海に捨てて証拠隠滅でも考えていたんだろうさ」



「許せない…」


「あぁ、私も同じ事を思っている」


怒りが汲み上げる中、三人組は武器はこちらに向けながら何か話し合っている。


「おい見ろ…あの隻腕の女…」

「まさか…」

「だとしても、こんな辺境まで来て諦められるかよっ!」


苛立つ一人が鉈を振り上げて突っ込んできた。


「セルカレンテ〈上昇風波〉ッ!!」


すかさず足下に魔法陣を展開し、吹き上げる気流で密猟者が宙に吹き飛ばされると、そのまま地面に叩きつけられ気絶した。


「風の魔法…?!」

「やっぱりあの女…」





「〈東風のシルッフス〉だ…!!」






「逃げろっ!!勝てるわけがねぇっ!!」



何かに気付いたのか、密猟者二人は急に血相を変えて荷車と気絶した仲間を置いて走り去っていった。


「フェリス、ロールホーン達の治癒をお願いできるかい?」


「分かりました」


荷車に向かうと、まだ微かに息をしたロールホーンが四頭うごけなくなっていた…

すぐに力を込め、耳飾りが蒼く輝くと一頭ずつその光が腕を通して流れていく。


歩けないようにという理由か、四頭の脚の腱を意図的に切られている。

角は一緒に積まれていた鋸を見る限り、恐らくこれで斬られたのだろうが、そんなものを一緒に積んで視界に入ってきていたのはこの子達にとって恐ろしかったはずだ…


……人間に利用される獣は…哀れだ…


「ごめんね…本当にごめんね…」


最初は私のかざす手に対して恐怖を抱く目で見ていたが、身体の傷が癒されていくのが分かると、その警戒心はすぐに解いてくれた。


他の三頭もそれを見て警戒を解いている。


まずは斬られた腱の修復と角を再生させ、その後全身の傷を治癒すると、すぐに起き上がり荷車から降りていく。


四頭全ての治癒を終わると、ロールホーン達はたまにこちらに視線を向けながら平原へと去っていった。


「良かった…もう捕まらないといいけど…」

「これで密猟者がいなくなったとは限らない、同じことを考える輩はまだいるはず…悲しいがこれが現実だ。」


「この人はどうしますか?」

「縛り付けて荷車で隣村の屯所まで運ぼうか。引き渡せばこいつらの密猟グループは壊滅させられるはずだ…それにしても…」


シルフさんが私を見て何か考えている様子だ。


「フェリス、その治癒の力はあまり他人に見せないようにしようか。悪用しようとする者が出てくる」


「わ、分かりました…」


確かに…ロールホーンの角も即座に再生できるこの力は密猟者達にとって好都合だろう…


「さぁ出発しよう。こいつらに時間をとられ過ぎた分を取り戻さないとな」


密猟者を担ぎ上げて荷車に放り込むと、シルフさんが軽々と引きながら足を進めていった。


フードを被り直してロールホーン達の去った方向を見つめ、色々と考えさせられる。


一見、平和そうに見えるこの世界のどこかで今も苦しんでいる獣がいることを…


母だったらそんな獣達を見捨てる事はしないだろつ…

母のような獣医を目指すなら…




私に出来るのはきっと…




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