第85話 「共に」
クラーケナーの襲撃から7日が過ぎた。
この村で過ごしながら、ラズリの身体が元に戻らないか試してはいたものの、戻る気配は微塵もなかった。
どうして、あの時は元に戻ったのだろうか…
引き金となる何かがあったのか…それともただのまぐれだったのか…
でも、あの時ラズリが元に戻れた事でこの村を守ることが出来たのは確か…
それに、村長の話を聞くと暴れていたリーフィーホース達は人造種で間違いなさそうだった。
異常に巨大化したクラーケナーに人造種の出現…生態系に異変が起きている…罪のない獣達の命が失われてしまう…
はやくどうにかしないと…
今日も生け簀にいるリーフィーホース達の治癒をしながら1日を終えようとしている…ここの生活にも馴れてはきたものの、母の情報を集める為にも動かないと…
でも、あの白鯨の言っていたアヴァロンへ向かいたくても1人では不安だ…
ラズリに乗ることができれば1人で行くことも考えてはいたけれど…
キュルッ!
肩に乗っていたラズリが突然鳴き声をあげた。
「どうしたの?さっきまで大人しかったのに…」
この7日間、ラズリは自ら動くこともなくほとんどを私の肩の上で過ごしていた。
一時的に身体が戻った弊害か…
体力を回復させているようにも見えていたが、今久しぶりに鳴き声を聞くことができた。
「最近元気無かったんだから、心配してたんだよ?」
キュルルルッ!
もう大丈夫だと言わんばかりに肩の上で動き回っているが、時折視線を村の方角へ向け誰かが来るのを待っているようだった。
「おーいフェリス、そろそろ村に戻るぞ」
「シルフさん」
どうやらラズリはシルフさんに反応をしていたようだ。
「なんだいちびちゃん、私が来ることが分かったのかい?」
「すっかり懐いているみたいですね」
私の肩からシルフさんの肩へ跳び移り、嬉しそうに頬を擦りよせている。
「よしよし、フェリス少し話があるんだが…良いかい?」
「なんでしょうか?」
「私と一緒に…『アヴァロン』へ行かないか?」
「え…?」
「もうクラーケナーやフェリスの言う人造種とやらの襲撃も少なくなってきた。もう大丈夫だとクィルがフェリスを連れて行ってやれとな。」
「でも…」
「ん?片腕の私では不安かい?」
「いえそんな…シルフさんが来てくれるのであれば心強いです。ただ…シルフさんはこの村を離れても良いんですか…?」
「まぁ少し寂しいが、あんたの母親に恩を返せる良い機会だというのもある。私を護衛として共にアヴァロンを目指そう」
「ありがとうございます…宜しくお願いします」
「共に旅をする仲間にそんなに畏まらなくていい。さぁ、旅の支度をしよう」
その頼もしく笑う顔が私の中にあった不安を一掃させてくれる。
心を決めて生け簀から離れようとした時、沖からあの嘶きが耳に届いた。
「リフィ?」
蒼く美しい鬣のリーフィーホースが私に向かってきているのが見えた。
「もしかして、お別れの挨拶に来てくれたの?」
少し寂しそうにも感じるその表情を見て、身体が濡れるのも構わず抱き締める。
「リフィ、あなたのおかげで今も生きてる…ありがとう…」
「やはりこの個体…体色もそうだが通常種とは違う種なのかもしれないな…」
「新種ということですか?」
「まだそうとは決まってはいないが、その可能性もある」
愛おしく嘶くリフィの眼を見る。
曇り一つない透き通った蒼い瞳…
どこか、母の瞳を重ねて思い出してしまう。
「またね、リフィ」
旅は陸路を歩いていく。
流石に水棲であるリフィは連れていくことはできない。
それはリフィもわかっている様子だが…
「離れてても、私はあなたの友達だよ」




