第82話 「陽動」
身体を動かしているだけで空気が揺れているのが分かる…
その触手だけでラズリの何十倍の大きさだ…
「クラーケナー…」
「過去に何度か漁の間で遭遇したことはあったが、ここまででかいやつは初めてだね…」
「二人とも無事だったか!!」
振り返ると、クィルさんがリーフィーホースに乗って合流してきた。
「なんだこのデカブツは…本当にどうしちまったんだこの海は…」
「どうやら残っているのは私達三人だけのようだね…」
辺りを見渡せば、他の村人の姿はなかった。恐らくこのクラーケナーによって…
「このまま野放しにはできない、この一帯の生態系を破壊されてしまうよ」
「王都のギルドに討伐要請を出すか?」
「討伐隊が来るまでにこいつは村も含めてこの辺り全てを平らげちまうだろうさ、今ここにいる私達でなんとかするしかないね」
「だろうな…だがどうする、ここにいるのは三人とリーフィーホースが二頭に大きなちびちゃんが一匹だ」
私達だけでこのクラーケナーを…
その触手を縦横無尽に振り回していて近づくことすら困難なのに…
…………近づく………村に近づけなければ良い……それなら…
「シルフさんクィルさん!!陽動して沖合へ誘導しましょう!」
「うむ、今はとにかく村から引き離して被害を最小限にするしかない」
「では私とラズリで陽動して引き付けるので、お二人は援護をお願いします!」
「フェリス、あんたにそんな危険な事なんて背負わせたくないがやむを得ない…私も魔法で援護するよ!」
海上という人間にとって不利な場であっても、この子達の力を借りれば…
様子を伺っていると、クラーケナーがその巨大な2本の触手をこちらに伸ばして襲いかかってきた!
「来たぞ!避けろぉぉぉぉぉぉっ!」
クィルさんが叫んだ直後、触手が私達の間を抜けると海面を真っ二つに叩き割った。
割れた海面から海水がまるで柱のように上昇し、辺りに雨を撒き散らしている。
三人が強引に分散させられてしまったが、各々がクラーケナーから距離を取りつつ囲むように動き始めていく。
「フェリス!!風魔法で援護するから好きに動きな!!」
「はい!ラズリ、旋回!!」
私の一声でラズリがクラーケナーの周りを旋回し始める。
その巨大な触手はラズリを捕らえようと伸びてくるが、空中に展開されたシルフさんの魔法陣から気流が発生してラズリの動きを援護してくれていた。
「小さい触手共は俺が引き付けておく!!」
海面でクィルさんが私達に伸びる触手に銛を突き指し動きを止めてくれている。
「ラズリ!このまま沖合まで引き付けよう!」
少しずつゆっくりと旋回しながら沖に向かって旋回を広げていくと、クラーケナーもそれに合わせて徐々に沖に移動し始めていた。
「いいよフェリス!上手くいっている!!」
「そのまま頼むぞ!!」
二人の援護を受け、触手を交わしつつなんとか動くことができている。
このままクラーケナーを誘きだしながらいけば……
上手くいくと皆の脳裏によぎったその瞬間だった。
突然、耳から身体を引き裂かれそうな爆音が全身に轟き、私とラズリは空中で強引に引き離されてしまった。




