第81話 「白い巨影」
「あのちびちゃんが本当にドラゴンだったとはな…」
落ち着きを取り戻した海面で、シルフとクィルは波に揺れながら思わずその姿に見惚れてしまった。
黒い翼と鱗…
そしてその瞳は瑠璃の如く蒼く透き通った宝石の様…
こんなにも美しい獣を見たのは初めてだったから…
「シルフさん、クィルさん…この事は…」
「ドラゴンに跨がる少女…まるで伝説のような話だね」
「とにかく助かった、感謝する」
深々と頭を下げるクィルを見て、シルフを含めて生き残った数人の村人が歓声を上げた。
「負傷したリーフィーホースの治療をするので、ラズリの下に来てください。」
ここにいる人達の治療をしたら、アラシア大陸へ向かおう。
母に一刻も早く会いたい…
ラズリが元に戻ったのなら、きっとすぐに戻れるはず…
治療を終えて、安堵の表情を浮かべている村人達の中、私は異変を見逃さなかった。
グルルルルッ…
ラズリが水平線を見ながら威嚇している…
もう襲ってきたリーフィーホース達の姿は見えないが、その先の何かに威嚇し視線を離そうとしない。
「ラズリ?」
治療を続けている間、その威嚇が徐々に強くなっている…だが、すぐに私にもその異変が感じ取れた。
「何か来る…」
ラズリの視線の先、水平線が大きくうねりながらこちらに近付いてくるのが見えたのだ。
「クィル、どうやらまだ安心は出来なさそうだぞ」
風の魔法陣を展開させ、シルフさんも臨戦態勢を取っていた。
クィルさんも銛を構えて、同じ方向に視線を向けている。視認できたのだろう、その顔が険しくなっていた。
「まさか…あれは…」
「あぁ、そのまさかだろうね」
「あの…あのうねりが何か分かるんですか…?」
どんどん近付いてくるうねり…
次第にその正体が白い巨影が水面ギリギリを泳いでいることによるものだと分かった。
「あれは…私が見た白い影…?」
「あいつからは逃げられない…だから俺達は戦うしかない…」
白い影が私達の目の前から消えてうねりが落ち着いたその直後…
「回避しろおおおおおおおおっ!!!!」
シルフさんが叫んだ瞬間、水しぶきをあげて大きな白い触手が私達に襲いかかってきた!
「ラズリ!!!」
咄嗟に高度をあげながら回避し、水面にいた村人達も各々分散してその場から離れようとしている。
だが、その触手は明確に私達を捕らえようと意思をもっているかのように追尾してきていた。
「ぎゃあああああああああああっ!!」
村人の1人がリーフィーホースごと捕縛され、宙に浮いていった次の瞬間…
「ダメ……!!」
触手から解放され、水面に落ちていくと、その落下地点から巨大な口が開いて飲み込まれてしまった…
「あぁ…そんな…」
丸飲みしたその巨大な口の周りから10本の巨大な触手が姿を現した。
「あれは…」
その姿を確認しようとラズリと共に近付こうとすると、その触手が襲いかかってきた。
「きゃあ!!」
ラズリがなんとか避けてくれるも、周囲を囲まれて逃げ場がどこにも見当たらない。
2本の一際巨大な触手が左右から襲いかかってきた瞬間、上昇気流が発生してなんとか上空に逃げる事ができた。
「フェリス!!近付くな!!一瞬で飲み込まれるぞ!!」
海面を見ると、私達の真下に風の魔法陣を展開していたシルフさんが声を荒げていた。
どうやら、シルフさんが助けてくれた様だ。
「ありがとうシルフさん!!」
上空から大きな水しぶきを上げながら暴れ狂う白い触手の本体を確認することが出来た。
シルフさんもすぐにその場から距離を取っていたので、そこへ降下して合流する。
「シルフさん、これは…」
「今考え得る中で最悪のやつに出会っちまった…」
「白の悪魔…『クラーケナー』だ…」




