第79話 「再び」
コッツァロ岩礁からインニッツィオ村へ向けて、海上を複数のリーフィーホースが人を乗せて走っている。
「クィル、あんたがいながらなんて様だい」
「すまない、あそこまで豹変している個体だとは…完全に油断していた…」
シルフがコッツァロ岩礁に到着した時には既に襲撃は終わっていたらしく、周囲に散っていた野生のリーフィーホースを集めてクィルノーツ達と村へ戻っていた。
「結局、何が原因かは分かったのかい?」
「いや、原因の特定までは出来てはいないが…一つだけわかった事がある、黒い眼だ。」
「黒い眼?」
「あぁ、瞳孔が開ききった黒い眼の個体だけが襲いかかってきていたんだ…まるで…」
「まるで?」
「死体のようだった…」
「はっ、死体が動いていたって?」
「とにかく、村に戻って彼女に話を聞いてみよう」
「彼女?フェリスの事かい?」
「あぁ、フェリスはあのアラシア大陸から来たと言っていた。何か知っているかもしれない。」
「アラシアの永久凍土化と、この異変が関係しているって?」
「分からん、だが今はそれしか思い付かん。」
「なんだいそりゃ、そんな適当だから息子も全然帰ってこないんじゃないのかい?」
「黙れ、息子は今は関係ない…」
ぎゃあああああああっ!!
突然、背後から悲鳴が聞こえてきた。
「さっきのリーフィーホース達が戻ってきたど!!」
「なに?!」
後方で泳いでいたリーフィーホース達が水しぶきをあげて次々と姿が見えなくなっている。
「同じ個体の群れだ!!人を乗せたリーフィーホースを無理やり沈めて、水中で襲いかかってきている!!」
「クィル、普通リーフィーホースは穏やかな性格のはず…明らかにあれは…」
「そんなことは分かってる!!俺はあいつらを助けに戻るから、村に戻って応援を呼んでこい!!」
「私もここで助けに行く!お前だけでは頼りないからな!数人はこのまま村に戻って応援を呼んでくるんだ!!」
シルフとクィルが指示を出すと、救出組と応援要請組の二手に別れていった。
〈インニッツィオ村南側 生け簀区画〉
この蒼いリーフィーホースに『リフィ』という名を与え、大人しくなったのをみて治療を続けていると、なにやら村の方が騒がしくなっているのが聞こえてきた。
「なんだろう…あ…」
村の方へ視線を向けていると、リフィが身体を起こして身震いをした。
日に照らされた鬣と震い落ちた水滴が輝いている。
嘶きを一つ聞いて、確信した。
「もう大丈夫だね、良かった」
リフィの頬に手を添えると、小さく嘶いて埋めてくれた。
これは名を与えた事による使役化によるものかもしれないけれど、この子を助ける事が出来た事は確か。
「どうしたのラズリ?」
嫉妬なのか、リフィを撫でていると自分もと言わんばかりに肩に乗るラズリがすり寄ってきた。
「ごめんごめん」
その小さな頬に手を当てていると、ラズリが村の方角に視線を向けて動こうとはしなかった。
「ラズリ、何かあるの?」
どうやら、村の方角が気になっている様子だった。
一度村へ戻ろうと身体を起こすと、リフィは反転して海へと戻っていった。
「あの様子ならもう心配ないか」
少し寂しい気持ちもあるが、ラズリが気にしている方角へ足を進めた。
〈インニッツィオ村〉
やっぱり村中が騒がしくなっていたようだった。
通り交う村人達の会話を聞いていると、クィルさんが助けに向かったが、再び襲撃され応援を呼びに来たとか…
「クィルさん…シルフさん…」
村人達が武器などを急いで小舟に積んでいっている。
「私に関わった人達は…」
その時だった。
キュルルルルルルアアアアッ!!!




