第73話 「隻腕の漁師」
慌ただしく村の男が小屋に飛び込んできた。
「村長!コッツァロ岩礁付近にリーフィーホースの群れさおっただ!!」
「コッツァロに?なんでそんな浅瀬にリーフィーホースが…見間違いじゃないんだな?」
「んだ!あの緑の鬣は間違いねぇ!」
「そうか…フェリス、俺は沖に出るがこの小屋は自由に使って構わない、ゆっくり休むと良い」
「え、あの…!」
そういうと村長さんは私の返事も待たずに足早に小屋から出ていってしまった。
どうしよう…
マテリアが助けを必要としているかもしれない中、ただじっとしている事なんて出来ない…
少しでも情報を集めないと…
耳飾りと指輪を付け、小さなラズリを肩に乗せて私は小屋を後にした。
小屋の外では先ほどのリーフィーホースが現れたという騒動でバタバタとしている。
この村の男達が海岸に停泊させていた小舟に乗り込んでいき、一艘ずつ沖へと向かっていった。
良く見えなかったが、出航していく小舟の船首付近から縄が海面に向かって伸びていた気がしたような…
それにしても…
どこまでも拡がる水平線、その先のアラシア大陸に戻る方法は…
この身体の小ささではラズリに乗る事は出来ない…
かといってここの小舟を一艘借りてたとしても辿り着けるのか…
そもそも大陸が凍土と化している以上、上陸することすら困難なのでは…
「ラズリ…私どうしたら良いのかな…」
肩に乗るラズリの頭を軽く撫で途方に暮れながら海岸沿いを歩いていると、あるものが目に入った。
「あれ、なんだろう…」
少し先に見えたのは浅瀬に浮かぶ木でできた四角い何か…
漂流してきた木々にしては不自然に浮いている。
波に揺られてるが、まるで水底から繋がれているようにその場に留まっている。
海岸沿いに進み一番近いところまで来たが、海岸から少し離れたところにあり上手く見ることが出来ない。
濡れるのを覚悟で海に足を入れようとしたその時…
「生け簀に何か用か?」
「きゃっ!?」
背後から声をかけられ、驚いてその場に尻もちをついてしまった。
「すまん、驚かすつもりはなかったんだが…」
全身が海水でベタベタだ…
川の水と比べると、身体に付きまとってくるような感触が少し不快に感じる…
「すみません…あれが何か気になって…」
「あれって生け簀か?見たことないのかお嬢ちゃん…あぁ、君は確か海岸で倒れていたっていう…」
濡れた身体を起こして立ち上がり、声の主に視線を向けた。
「あ…」
褐色の肌で長髪を馬の尾のように高めの位置で束ね、露出している腰は細いが胸辺りが布切れの服では隠しきれないほどふくよかな体型の女性だった。
でも、言葉が詰まったのはそこじゃない。
「……。」
自然とその人の右腕があるべき所に目がいってしまう。
「ん?…あぁ、これは昔の戦いで失くしちまってな」
「戦いって…」
「こう見えても昔は名のある魔道師だったんだが、今はこの村のしがない漁師さ。名は『シルッフス』、シルフとでも呼んでくれ」




