第68話 「愛してる」
「フェリス、愛してるわ……これからもずっと…」
その言葉を最後に母は氷柱に飲み込まれていった。
「お母さん…?!お母さん!!」
「まずい…あの女を殺せっ!!『禁忌呪法』を発動させてはならんっ!!」
教皇が慌てて人造種に指令を出すも、ラズリとグリフォンが近づけまいと応戦している。
「お母さん…お願い返事をして…!」
氷の中で微笑みながら動かなくなっている姿に、焦りと涙が溢れてくる。
その頭上を覆うように原種の蒼鱗のドラゴンがうずくまっていく。
「フェリス!!生きなきゃダメ!!」
「いやだっ!!お母さんから離れたくないっ…!!!」
「フェリス…」
グリフォンとラズリがフェリスとマテリアの元に駆け寄る。
「貴方は行って、生き延びなさい」
グリフォンの頬を優しく触れると、その白い翼を拡げ教会から飛び去った。
「さぁ貴方も…」
黒鱗のドラゴンに視線を向けると、泣き崩れるフェリスに寄り添い、離れようとはしなかった。
氷柱は頭上のドラゴンと共にさらに力強く輝き始めている。
「わかってる…フェリスを乗せて逃げましょう」
強引に彼女を立たせ、ラズリの背中に乗せる。
「いやだっ!!お母さんっ!!!」
フェリスを乗せたのを見ると、氷柱の中にいる人はどこか安堵の表情を見せているように感じた。
「行かせるなぁぁぁっ!!!」
教皇の怒号も間に合わず、ラズリは二人を乗せながら人造種を交わして飛翔した。
「お母さぁぁぁぁぁんっ!!!」
フェリス…
私の大切な…フェリス…
どうか…
幸せになって…
「………ブライニクル〈侵触の絶対氷結〉」
ーー同時刻 アライア・ヘウン城 王の間ーー
教会から蒼白く輝く光と共に、黒い影が天高く飛翔するのが見え、同時に周囲一帯が永久凍土に飲み込まれていった。
慌てて王の間へ駆け込む衛兵達。
「報告!!教会より発生している謎の氷が広まり、王都を飲み込み始めています!!」
「ほ、報告!!逃げ遅れた民達がその氷に触れた途端、全身が凍りつき飲み込まれているとのこと!!」
「〈禁忌呪法〉…やはり止められなかったようですね…」
迫り来る氷を眺めながら、何かを悟った女王は避難してきた民達へ声をかける。
「皆、聞いてください……」
その急報は、四大陸に瞬く間に広がっていった。
王都アライア・へウンを中心とし、突如『アラシア大陸』全域及びその200海里が範囲として永久凍土と化した。
原因は定かではないが、その凍土の侵食はゆっくりと進み続け、次第に他の大陸にまで及ぶことを危惧されている。
船による接近も困難となり交易等全てが遮断され、その後の『アラシア大陸』の状況を知る者はおらず…
不可侵の大陸と化してしまったと…
〈セレニス大陸 東側海岸に位置する村にて〉
朝日が顔を出す水平線。
朝凪と静かな波の音が聞こえてくる。
「ほれ見ろ、あそこだで!」
「あいやぁ、本当におるだがや!村長あそこあそこ!」
「まったく、一体何が流れ着いて…ん?」
静かな朝日に包まれる海岸だったが、突然慌ただしくなる…
「大変だ…この髪色はあの一族の女と…こいつは…」
「こいつは黒い小さな……トカゲか?」
〈第三章 王都アライア・へウン編〉 完




