第65話 「記憶」
「やはりか…」
崩壊の止まらぬ教会…
深紅に燃え盛る炎…
火の粉と黒煙が舞い、辺りを暗く包み込んでいる。
その上空で二頭の蒼鱗のドラゴンが激しい戦いを繰り広げる中、教皇は転移させた氷柱に視線を向けていた。
「どうして……」
「まだ喋る余力が残っているとはな、すでに限界を迎えているだろうに…」
「どうして…フェリスがここに…」
「健気な娘よ、母である貴様を助けに来たと嘆いておったぞ」
「私を……」
「あの小娘がここにいる以上、貴様もその力を解放することは出来ぬだろう…皮肉なものだな」
どうしたら…
もうこのまま…力を解放してこの大陸ごと…
だめ…
そう考える度に記憶が溢れてくる。
初めてあの子をこの手で抱いた温もり…
泣きぐずるあの子を一緒に包み込んでくれていた静かな月明かり…
獣に等しく愛を注ぎ、走り回るあの子の後ろ姿…
そして気付けば、同じ目線の高さで他愛も無い会話をしていた…
鳴り止まぬ地鳴りと共に、地面の亀裂が大きく広がっていく。
上空にいる二頭のドラゴンの息吹が激しくぶつかり、衝撃波が襲いかかってきた。
「見ろっ…!あの五神獣の一角と対等に戦えているぞ…!」
見上げると、爆散した息吹が氷のつぶてとなって降り注ぎ、辺りにいた人造種の獣達に襲いかかっている。
そんな光景を見ても教皇は空を飛ぶ自身の最高傑作にしか眼中にない。
本当に…
「命を…なんだと思って…」
怒りと共に感覚が少しずつ戻ってきていた。
すかさず、あの人造種に吸収されている力を抑え込み流出を抑える。
すると、人造種が徐々に原種の力に押し負けていた。
「貴様、余計な真似をしおって…リベラレーテ〈解放せよ〉」
教皇に魔方陣を向けられると、意図的に抑えていた力を制御出来なくなった。
「くっ…!?」
全身の力が抜け、不気味な脱力感に襲われる。
「やはり、この女が器では力が発揮できぬか…まだ力を抑制できないあの娘を使わねば…」
上空を見ると、再び力を取り戻した人造種が原種の喉元に喰らいついているのが見えた。
「……やめて…」
「もう一度、その氷に閉ざされるがいい」
教皇が魔方陣を展開すると、さらに強引に力が解放されていく。
動かせない体に氷が覆われていくのを感じる。
一瞬、原種のドラゴンが教会の近くに墜落したのが見えた。
生態系が崩壊し、世界が崩壊していく…
「ふはははははっ!!人造種が原種を超越したぞっ!!これで…他の大陸も我が手中に収めることができる!!」
人造種が崩壊した教会の屋根に着地して、咆哮をあげた。
それはまるで、世界が終わる事を告げているかのように…
「さぁ、行けっ!!まずはこの王国を我が物にするのだ!!」
「フェリ……ス……」
人造種がその大きな翼で飛び立とうとしたその時…
キィィィィィィィィンッ…!!!!
空気を切り裂くような音が聞こえ、地面の裂け目が青白く光り始めたのだ。
「なんだ…」
次の瞬間…
青白い炎の玉が裂け目から飛び出し、不意をつかれた衝撃と共に人造種が屋根から崩れ落ちていった。




