第64話 「希望」
「お母さん?!お母さん!!」
やっと会えた…
氷柱を力任せに叩くも反応はない。
ナイフを取り出して切先で削ろうとしても傷一つつけられない。
「お母さん…!!」
おそらく、魔法で生成された氷なのだろう…
拳から血が滲み出るのも構わずひたすら叩き壊そうとしているのに、この氷柱は頑なに母と会わせてくれなかった。
やっと会えたのに…すぐそこにいるのに…自分の無力さを思い知らされる。
ラズリの息吹なら…
いや、氷と共に母を傷つけてしまうかもしれない…
ただ、淡く光る母の耳飾りを見てあることに気付いた。
よく見ると、その耳飾りの周りに空間が空いているように見えたのだ。
もしかしたら…
静かに氷に手を触れた。
瞳を閉じ、力を込めると自身の耳飾りが淡く光り、腕を伝って母へと向かっていく。
光が氷へ辿り着いたその瞬間、その周囲から氷が溶けていった。
間違いじゃなかった。
これならお母さんを助けることができる…!
瞳を閉じてさらに力を込めると氷が溶けていくのを感じた。
「あと少し…!」
涙が氷から徐々に露出する母の顔を滲ませてくる。
村に戻ることはできないかもしれないけど、どこか遠い場所で母と暮らしたい。
母の作る朝食の匂いで目が覚めて…
まだ知らない獣のことを教えてもらって…
一緒にお風呂に入って…
明日は何をしようか話して一緒に眠りたい…
ただ、普通に暮らしたいだけ…
「………フェリス…?」
懐かしい声だった。
瞳を開けると、瑠璃色の瞳がそこにあった。
「…お母さん……やっと会えた…」
優しく静かに見つめるこの瞳、間違いなく私の母だった。
「フェリス…どうしてここに……」
力が入らないのか、弱々しく尋ねる母。
「それに…なぜあなたがそのローブとナイフを……」
「お母さんを助けに来たんだよ!すぐに助けるから!」
まだ身体を覆っている氷を溶かそうと、涙を堪えながら力を込めていく。
「フェリス……私はいいから…ここから逃げなさい…」
「一緒に逃げよう!」
「お願い…お母さんの言うことを聞いて…」
「いやだ……いやだ…!!」
母が私の背後にいるラズリに視線を向けていた。
何か伝えているように見えたが、この氷を溶かす方が優先…
「え?」
突然、母を封じていた氷柱を囲むように魔方陣が現れた。
「これって…転移魔法陣…」
「フェリス…」
「まって…だめ…!」
魔法陣が激しく発光し母の姿が見えなくなった。
「その子と…あなたの………と一緒に…」
その言葉を最後に、母の姿が消えた。
「お母さん…?」
周囲を見渡すも母の姿はどこになかった。
あの転移魔法陣、見覚えがある…
教皇が人造種を呼び出していた時の物と似ていた。
まさか、教皇に…
「ラズリ、教皇を探しに…きゃっ!?」
突然、大きな揺れに襲われ、思わず倒れそうになり、ラズリが受け止めてくれた。
研究室が崩壊し始めている…はやくここから脱出しないと…
だが、天井が崩壊し瓦礫が私達に襲いかかってきた。




