第63話 「淡い光」
「マテリア!!エヴァンスさん!!」
砂煙で何も見えない。
大声で呼び続けても、返答はない。
「そんな…」
崩落し続けている方へ駆け寄ろうとするも、ラズリに制止されてしまう。
「離して!まだ二人がそこに…」
砂煙と落石音が落ちつき、見えてきたのは落石で埋め尽くされた地下牢だった。
そこに、二人の姿は見えない。
「マテリア…エヴァンスさん…」
やっぱり私は呪われた一族なのだと。
周りの人を不幸にさらしてしまうんだ。
生きてたらいけないんだと…
胸が苦しくなり、その場に膝から崩れ落ちてしまう。
「うっ…ぐすっ……」
痛みと涙が同時に襲い掛かってくる。
自分が嫌になる。
気づけば、懐からナイフを取り出し自らの喉元に突き付けていた。
「はぁ…はぁ…!!!」
私がいるから…生きているから…
この惨劇が起きてしまうなら…
もう生きていたくなんか……
バシッ!!!!
持っていたナイフが強い衝撃を受けて飛ばされてしまった。
「え…?」
目を開けるとラズリがその青い瞳で私を見つめていた。
「ラズリ…?」
私の頬にすり寄り、その体温を感じさせてくれる。
体を密着させ、私にその心臓の音を聞かせてくれる。
「あ…」
大きく…強く…確かに生きてる音が聞こえる。
「ごめんラズリ…ごめんね…ごめん……」
愛しそうに喉を鳴らしている。
「大丈夫」
ナイフを拾い、懐にしまって奥へ進む通路に視線を向けた。
「エヴァンスさんはこの先が研究室だって言ってた。なにかあるかもしれない」
先ほどの地響きでラズリも通れるほどの隙間が空いていた。
「行こう、ラズリ」
暗く続く先の見えない通路を歩き続ける。
どこかから聞こえる水の滴る音と、二人の足音が響き渡る中、マテリアと過ごした記憶がよぎっていく。
涙がこみ上げてきそうになるのを抑えながら進んでいくと、違和感を感じた。
「気温が下がってる…?」
奥に進むにつれ吐く息が白くなり、壁や天井に霜が付き始め、通路の先に青白い光が見えることに気づいた。
その光に向かって足早に歩いていくと、開けた場所に出た。
あの人造種も余裕で収まるほどの広さだ。
それに地下にも関わらず、全体が雪と氷に覆われている。
おそらくここが…
「研究室…」
見渡すと、広間の中央に巨大な転移魔法の痕跡と、その手前に青白い淡く光を放つ氷柱が立っていた。
通路から見えていた光はおそらくあの氷柱からだろう。
ゆっくりと歩み寄り、その氷柱に触れる。
「……?!」
思わず息を吞み、体から血の気が引いていくのを感じた。
氷柱の中心部に閉じ込められる人影が見えた…
そしてその人影の耳の辺りでどこか懐かしくもあったこの青白いく淡い光を放っていた…
私の耳飾りと同じ光…
その耳飾りのもう片方を持っているのはこの世で一人しかいない…
この氷柱の中にいるのは…
「お母…さん…?」
ーーアライア・ヘウン城 謁見の間ーー
この広い謁見の間が避難してきた王都民たちで埋め尽くされていた。
ここに入りきらない民たちも城壁内全体を埋め尽くすほどごったがえしている。
「ヴィジアルテ、民の避難の進捗は?」
「民の七割の誘導は完了しているとのことです」
「七割…残りの三割は?」
「それが…衛兵の誘導に従わず、王都郊外へ逃げた民もいるようで…」
「そう…誘導に従っている民達はなんとしてでも城壁内へ。私の寝室や地下の貯蔵庫も開放して構いません!」
「急報ーーーーーーっ!!」
一人の衛兵が青ざめた顔で慌てて駆け寄ってきた。
「どうしたのですか?」
「ほ、報告!!先に報告した北側より飛来中の飛翔体の正体が判明!!」
「正体は?」
「体格、体色など全ての特徴が教会に出現した蒼鱗のドラゴンと一致…同一個体と思われます!」
「なっ?!ド、ドラゴンが二体だと…?!」
ヴィジアルテが慌てて窓の近くへ駆け寄ったその時、大きな地響きとともに地面が揺れた。
民の悲鳴が響き、絶望に駆られている。
「皆の者!落ち着くのです!この城にいれば安全ですから!!」
「そんな保証どこにあるんだ!!」
悲鳴の中、一人の男性が声を荒げた。
「そうよ!!誘導されて仕方なく来たけど、郊外に逃げたほうが良かったわ!!」
不安に襲われる民たちがパニックを起こしている。
「女王陛下!あれを!!」
騒ぎの中、ヴィジアルテが外に見える教会上空を指さした。
それは、地上にいる蒼鱗のドラゴンを見下ろし、滞空していた。
「あれが本物の……ノア…」




