第62話 「犠牲」
すぐに手を掲げ、力を込めて治癒を始めた。
「ぐっ…君は…」
「フェリスです!今治療してますから動かないでください!」
「無事でよかった…だがどうしてここに…」
見てみると、崩れた瓦礫などでできたものではなく、明らかに人為的につけられた傷が全身に広がっている。
「まさか…拷問されていたんですか?」
「それよりもマテリアは…あの子は一緒ではないのかい?」
「今ははぐれてしまって…探していたらエヴァンスさんを見つけて…」
「なら、マテリアを見つけてここから出るんだ…」
「でも、まだ治療が…」
「私のことはいい…早くここから…いや、この大陸から脱出するんだ…」
「大陸から?それってどういう…きゃっ?!」
また地鳴りが聞こえてきた。
「もう地上にいるのだろう…蒼鱗のドラゴンの人造種が…」
「はい…」
「やはり…じきにあの人が力を解放するはず…」
地下牢で話を聞いた時もそうだけど、この人は何か知っている…
母がやろうとしている事を…
「エヴァンスさん…母がどこにいるか知っているんですよね?」
「……。」
「お願いします、母を助けたいんです」
「……フェリス、君のお母様ほど強い人はいない」
「母が…強い…?」
強い…いったいどういう意味なのだろうか…
「この先へ進むと一際大きな広間がある。そこは教皇が研究室と呼んでいて、あの蒼鱗のドラゴンを生成していた場所…」
崩壊したがれきに閉ざされかけているが、エヴァンスさんの視線の先に奥続く通路が見えた。
「半永久的に活動可能な人造種とは違い、あの人造種だけは活動エネルギーの消費が激しい。それを補うために‘‘器‘‘と呼ばれる供給源が必要だった……君という‘‘器‘‘だ」
「私が‘‘器‘‘…?」
「ノアの一族である君は、器として適性なのだ…計り知れない力を持っているからな」
呪われた一族の末裔というだけ…でもこの世界にとってそれだけで利用価値のあるもと認識されてしまうのか…
私はただ…普通に生きていたいだけ…母のような獣医師になって、誰かのために生きていたいだけなのに…
「あの人造種が今活動できているのは君のお母様が器として一時的に繋がれ、その命を使われているからだ。だがその命がもう尽きかけている…」
「尽きかけてるって…お母さんが死んじゃうってことですよね…ならすぐに助けに行かないと…!!」
「だめだっ!」
「だめって…どうしてですか?!」
「君のお母様は助けられる事を望んでいない…」
「それは…お母さんは死ぬことを望んでいるってこと?」
「…そうだ、お母様は自らを犠牲にして禁忌を犯そうと…」
「禁忌って…魔法ですか?」
「魔法ではない、ノアの一族だけが使える世界を滅ぼしかねない力だ。その力とは…」
「お爺様?!」
振り返ると、血を流したマテリアが立っていた。
「マテリア?!」
「マテリア、無事だったのだな…」
「動かないで、すぐ治療するから…」
「私なら大丈夫よ。それよりお爺様、その怪我は…?」
「フェリス頼む。マテリアを連れて大陸から脱出してくれ。君のお母様の最後の願いだ…!」
「お母さんの願い…」
「親というものは、子を守るためなら自分を犠牲にしてでも守り抜こうとするものだ」
また地響きとともに地面が揺れ始めた。
先ほどよりも激しい。地上にいる人造種の影響だろうか…
天井から瓦礫が降ってくるのを見て、マテリアがエヴァンスに駆け寄った。
「ここも崩れかけている…行きましょう!」
「私とラズリで先導するから!」
牢の外にいたラズリに乗り元来た道に視線を向けた。
「ありがとう!ほらお爺様立って!」
「マテリア…」
だが、マテリアがエヴァンスの肩を組んで立ち上がろうとしたその時だった。
強い揺れが発生し、二人の頭上が崩壊して崩れ落ちてきたのだ。
「マテリア危ない!!」
「え?」
慌てて駆け寄るも、無数の落石と舞い上がった砂煙に二人は巻き込まれてしまった。




