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幸福のフェリス  作者: 海野 咲凛木
第三章 王都アライア・へウン編

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第58話 「咆哮」


その咆哮は教会だけではなく、空気までをも震盪させている。


「ラズリ…」


唸り声を上げ、教皇からその青い瞳を絶対に剃らそうとしていない。


「これが黒鱗のドラゴン…なんという美しさ…!」

「ラズリ…どうして来たの…!あの小屋で待っててって…」


いや、きっとラズリは本能的に私の危険を察知して来てくれたのかもしれない…

知っているから…この子は優しいって…


「この個体がいれば"あれ"がいなくても完成させられる…!」


グルルルルルルッ…!


牙を剥き出し、目の前の男が敵であると認識している。


「誰か!!誰かおらんのか!!このドラゴンを捕らえよ!!」

「教皇様!!ご無事ですか?!」


黒煙に囲まれる教会に衛兵達が集まってきていたようだ。


「なっ!?ま、まさかドラゴン…!?」


王都の精鋭でもある衛兵達がラズリを見て思わず動けなくなっている。もう存在しないと言われていた伝説の生物が目の前にいることが信じられないのだろう。


「その黒鱗のドラゴンがこの教会に火を放ったのだ!何としても捕えよ!」

「ラズリはそんなことしてない…!」

「そこにいる青い髪の女も捕えよっ!そのドラゴンを操って火を放ち、この王都転覆を目論んでいるぞ!」

「ち、違う…!私達はそんなこと…」

「ノアの一族の言う事に耳を傾けてはならん!呪われるぞ!」


教皇の言葉を聞いた衛兵達が私達に武器を構え、詰め寄ってきた。


「待ってラズリ!人を傷付けてはだめっ!!」


間合いに入ってくる衛兵に向けてその爪を振り下ろそうとするラズリを制止するも、衛兵達はさらに詰め寄ってきてしまう…


ラズリに人を傷つけさせたくない…

でも、何とかしないと私達が…


「うおおおおおおっ!!」

「やめて!」

一人の衛兵が長剣でラズリに斬りかかった。

抵抗せずその長剣を翼膜で受けてしまい、ラズリが血を流して苦痛の顔を浮かべている。


「お願いっ!!この子を傷つけないでっ!!」


「その長剣についたドラゴンの血を寄越すのだ!!」


教皇が目の色を変えて衛兵から剣を奪い取っていった。


「これがあればもうそのドラゴンに用はない…!」


教皇が剣を持って広間の中央へ向かっていく。


「とっておきの物を見せてやろう…」


何やら不気味に光る魔方陣をいくつも出現させて、辺り一面に散りばめていっている。

その魔方陣を通して床からゆっくりと姿を現したのは…


「グリフォン…?」


白い翼に鋭い爪を持った希少種だ…

以前、大通りに襲来した個体に似ているけど…


他の魔方陣からもダイヤウルフにホムラマトイ・ライノスなど次々と獣達が出現している…


だが…


「様子が変…」


魔方陣から現れた獣達は皆、瞳の色が真っ黒に染まっていたのだ…まるで生気を感じない死んでいるような…


ラズリも唸って警戒している…

でもそれは獣同士の喧嘩等の威嚇ではなく、得体の知れない物に対してのように感じる…


「これが私の研究の成果だ」


「まさか………」


生物なら瞳孔や虹彩で生きている事は分かる…

でもあの子達は姿形は同じだけど、明らかに目に光が宿っていない…


「人造種……?」


「殺れっ!!我が兵器共よ!!」


教皇の号令と共に、全ての人造種が一斉に衛兵達に襲いかかった。


「なっ?!や、やめろ…!!」

「ぎゃあああああっ!!」


衛兵達が必死に抵抗するも無惨に殺されている…


抵抗する事が無駄だと思えるほど、その強大な力に一瞬で命を奪われていく…


「どうして味方を……」


「素晴らしい…これが人造種の力だ…!!」


あの人にとって味方の衛兵も実験道具…

そう言っているかのように高笑いをしている…


「ひどい……あっ!」


教皇に気を取られていたせいで、襲いくるダイヤウルフに気付かなかった。


キュアアアッ!!!


ラズリが間一髪でダイヤウルフを地面に薙ぎ倒してくれたが、押さえ付けられたダイヤウルフは痛みを感じていないのか自身の身がちぎれかけても尚、私に襲いかかろうとしている。


生物の本能なんて一切なかった。


倫理に反し生み出された人造種……

この子達に心なんてない…

ただ命令された事を遂行するためだけの使い捨てにされて…


「酷い……酷すぎるよ…」


気付けば辺りにはもう衛兵の姿はなかった。

見えるのは惨殺された遺体だけ…


そして、全ての人造種の標的が一つに絞られていた。

勘づいているラズリが私を守るように臨戦態勢になる…


「さぁお前達…その娘は殺さず生け捕りにするのだ、ドラゴンは…好きにするがよい」


その命令と共に、人造種達が一斉にラズリに飛びかかった。


多勢に無勢…

ドラゴンのラズリでも、この数を一度に相手したら…


「ラズリ!!逃げて!!」


どれだけ強く願っても、ラズリは私を守るためにここから離れようとはしなかった…


「きゃあっ!!」


飛びかかる人造種を両翼や尾で払いのけるも、徐々に数に圧倒されかけている…


グリフォンが光の無い目でラズリを捉えていた。小型の人造種ならまだしも、大型のグリフォンも同時に対処するのは厳しいに違いない。


「あっ…!」


案の定、グリフォンの体当たりでラズリが吹っ飛ばされてしまった。

孤立した私をグリフォンと他の人造種が取り囲むように狙いを定めてきている。


「生け捕りにすれば身体が欠損していようが構わん、捕えよ!」


教皇の命令と同時に私目掛けてグリフォンが襲いかかってきた。


もうダメと思ったその時…



「フェリス!!」

 


私を呼ぶ声と同時に、目の前にもう一体グリフォンが現れたのだった。



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