第59話 「絶望」
ーー同時刻 アライア・ヘウン城 王の間ーー
「なに、燃えているだと?」
女王側近のヴィジアルテが急報を聞き、各衛兵達に指示を出していた。
「ヴィジアルテ、何事ですか?」
騒ぎを聞いた女王が王の間にて玉座に座り問いただすと、ヴィジアルテは片膝を着いた。
「ご報告いたします。先程、アライア教会にて黒煙を確認。すぐに消防兵の手配及び周辺居住民達の避難指示を発令したのですが…」
言葉に詰まるヴィジアルテ。
「どうしたのですか?」
「その…衛兵の報告によると、多数の獣の姿及び…黒鱗のドラゴンの姿を確認したと…」
「黒鱗のドラゴン…?!」
「情報が不確かな為、確認に向かわせているところです…」
「まさか…ドーア教皇…」
「き、急報ーーーーー!!!」
さらに慌ただしく衛兵が王の間にとびこんできた。
「今度は何事だ!」
「報告!王都北側方面より、正体不明の飛翔体が接近中!!」
黒煙が教会内に充満していく中…
突然目の前に現れたグリフォンは私を守るかのように人造種のグリフォンと対峙している。
間違いない、このグリフォンは人造ではなく本物だ。
でも、一体どこから…
しかもこのグリフォン…地下牢にいた子じゃ…
「フェリス、大丈夫?!」
振り返ると、そこには黒鎧を身に纏い、茶色の長髪を靡かせているマテリアが立っていた。
「マテリア…?!」
「ごめん、すぐ助けに来れなくて…」
「このグリフォン、地下牢にいた子…?」
「そう、きっと力になってくれると思って連れてきた!」
「連れてきたってどうやって…」
「私の魔法知ってるでしょ?」
そう言ってマテリアが剣は掲げながら、懐から爪のサイズ程の小さな獣達が飛び出してきた。
「プロティアル〈変幻〉!!」
剣が光り、飛び出した小さな獣達の身体が輝き始める。
「皆、力を貸して!」
輝きと同時に元の大きさに戻っていき、周囲にいる人造種へ向けてそれぞれが臨戦態勢を取った。
「ダイヤウルフにホムラマトイ・ライノス…皆地下牢にいた子達だ…」
「私のせいでこの子達にツラい思いをさせてしまったのは分かってる…だからこの子達の自由と友人の為に…私は戦う!!」
「マテリア…育てた恩を仇で返すとは愚かな…」
「私を育ててくれたのはお爺様よ。」
「ふん、原種の獣が人造種に勝てる訳がない。あの愚かな女を殺せ」
教皇が命令を下すと、人造種達は一斉に飛びかかった。
それに応じてマテリアの連れた獣達も応戦する。
ラズリも立ち上がると、また私を守りながら人造種を払い除けていく。
だが、私を庇いながらでは戦いづらそうにしている。
だったら…
「ラズリ!」
声をかけ、意図を理解したのかその身を低くするラズリ。
その背中に跨ると、教会内にけたたましい咆哮が轟いた。
一瞬、原種達の動きが止まったような気もするが、振り落とされないようラズリに合わせて重心をずらし乗り続ける。
「フェリスすごい…ドラゴンを乗りこなしてる…!」
原種と人造種が戦闘を繰り広げる中、苦戦している所へ向かいラズリは注意を引いて少しでも助けようと動いてくれている。
「ラズリ、あの子の所へ!!」
私も目になり少しでも力になろうと周囲を見渡す。
しかし、どうしても力の均衡に差が出始めてしまっていた。
「人造種の動きが揃いすぎ…まるで軍隊のような…」
本能で戦う原種とは違い、人造種はまるで人間の考えを具現しているかのように隊列を
組み替えながら優位に戦っていた。
恐らく、教皇にそう組み込まれたのだろう…
リーダーの指示を忠実にこなしている…
「どうしよう…」
「なら、そのリーダーを倒すしかないでしょ!」
人造種と戦いながら、マテリアが教皇へ視線を向けた。
だが、その周りにはダイアウルフの人造種達が主を守るかのように取り囲んでいる。
「あの人造種達を教皇から引き剥がさないと…!」
「なら、私とラズリで引き付けるからその間に近づいて!」
意図を汲んだラズリが教皇目掛けて突っ込んでいく。
「正面から突っ込んでくるとは愚かな…」
教皇が手をかざすと横から人造種ホムラマトイ・ライノスがラズリに向かって突進し始めるも、ギリギリまで引き付けかすめながら交わし、さらに襲いかかるダイアウルフを誘導するように教皇から引き離していく。
「マテリア!」
「ありがとうフェリス!」
一人になった教皇を見逃さずマテリアは一気に間合いを詰め、その剣を振り下ろした。
だが…
「なっ?!」
マテリアが斬ったのは、魔法陣から出現し盾にされたダイアウルフだった。
「人造種はこういう使い方もできるのだ。万能であろう?」
「この外道が…あぐっ?!」
もう一体のダイアウルフが魔法陣から現れ、マテリアを押し倒した。
「マテリア!!ラズリ、マテリアを助け…きゃっ?!」
突然、教会一帯に地鳴りが鳴り響く。
ラズリでさえ体勢を崩されるほどの揺れだ。
「喜べ、貴様らは新たなる時代の始まりを見ることになるぞ!」
教皇がラズリの血のついた剣を床いっぱいに広がる大きな魔法陣に向かって突き刺した。
教会がひび割れ、崩壊し始めていく。
原種の獣達は本能的に逃げ出していたが、人造種達は頭上から瓦礫が降ってこようがその場から動こうとはしなかった。
「これが私の……最高傑作だ!!」
「うそ……まさか…」
その大きな魔法陣からゆっくりと現れたのは…
故郷の村にいたあの瑠璃色のドラゴンだった。




