第57話 「解放」
「村長…!」
既に拷問を受けていたのか、至るところに火傷痕が見える…
「ど、どうしてここに…」
「私の命令に背いたのだ」
村長の背後からローブを着た男がゆっくりと姿を現した。
「この男は私の命に背きこの王都…いや世界を破滅へ追い込むような手助けをしたのだ。やれ、アウル」
アウルが村長の顔に火を押し付ける。
「………」
だが、村長は一言も声を発する事なくただ両の膝をついていた。
「ず~っとこんな感じなんだよね。全然面白くないし…」
「お願いやめて……」
「ならば、ドラゴンについて話してもらおうか」
「それは…」
その曖昧な返答を聞いたアウルは躊躇いもなく不適な笑みを浮かべ、その火を村長に押し当てた。
「ぐっ……んんっ…」
「ほらほら、いつまで耐えられるか分からないよ?」
「村長………」
どうしてそんなことが出来るのか理解出来ない。
なぜ同じ人間同士で痛め付けて争うのか…
自身が人間でいることが嫌になってしまう…
この感情が、憎しみというものなのかもしれない。
頭の中が真っ黒に染まり、何かが溢れそうになる。
「その気配…アウル」
「仰せのままに」
さらに火力を上げ、容赦なく押し当てていく。
「ぐっ…!!」
「やめて……!」
苦しむ村長の姿に、何かがどんどん込み上げてくる。
「うっ…あぅ……」
胸が苦しい…頭も痛い…全てが辛い…
「良いぞ、そのまま解放するのだ…貴様の呪われた力をっ!!」
「う…うぅっ…!」
怖い…自分が自分では無くなるような感覚…誰かを傷付けてしまいそうになる衝動に駆られる…
そんな私という存在が…
怖い…
「フェリス……」
苦しみの中で、村長の声が聞こえる。
「フェリス、やはりお主は母親に似ている…」
「うぅ……あっ…」
目も開けていられない苦しみの中、村長の声が静かに聞こえてくる。
「あのエレイアの娘なら…わかるはずだ…」
「お…母…さん…?」
苦しみの中から、母との記憶が流れてくる。
その苦しみを追い払おうとするように、母が守ってくれている。
「フェリス、お前の運命は…お前が決めるのだ」
「…?!」
その言葉を聞いた瞬間、溢れそうになっていた何かを抑え込んだ。
「ぐっ…はぁ…はぁ…!」
「ほう…その忌まわしき力を制御したか……ふ…ふふっ…」
教皇はゆっくりとこちらに歩み寄ると、私の髪に触れてきた。
「教皇様…?」
「まさかここまで器として大成していたとはな…」
「村長を…解放してください…!」
「その瞳と髪色…ノアの一族ということが勿体ないほど美しいのだが…」
触れていた手に力を込めて、思い切り引っ張られる。
「うっ…!」
「今の制御は偶然か必然か…」
またしても痛みと共に何かが込み上げてくるのを感じた。
「さぁ…解放しろっ!!」
「い、嫌だ……!」
それが正しいのかは分からない。
ただ、村にいた時の記憶…母との思い出…
それを思い出せば、衝動が収まっていく。
「はぁ…はぁ…」
「耐えたか…だが、あと少しで"あれ"が到着する。急がねば。」
「よせ…!その子に触れるな!」
「アウル、その男はもう用済みだ」
「仰せのままに。」
手先に黒い魔方陣を発動させると、アウルがゆっくりと村長へと近づいていく。
「やめて…何をするつもりなの…!」
「言ったであろう、用済みだと」
村長の頭上に掲げられると、その魔方陣は不気味な妖光をより強く発光しだす。
「…フェリスよ」
「やだ…村長…」
悔いなんて微塵も感じさせない村長の笑った顔が視界に入った。
「デスドローデ〈消滅せよ〉」
その魔法発動と共に、村長の身体が黒い灰と化していく。
「あ……」
瞳から光が消えていくのがここからでも分かる。
「イリアンを頼むぞ」
初めて、目の前で見てしまった。
人が無情に殺され、死に絶えていくところを。
崩れていく灰はその場に積もり、もうそれが誰も人であったものとは認識することは出来ない。
「あ……あぁ……」
襲いくる衝動を必死に過去の記憶を思い出して抑え込もうとするが、逆にツラくなってしまう。村長の記憶を思い起こす度に、憎しみがより一層増そうとしてきてしまう。
「さぁ、力を解放しろっ!!」
「うっ……ぐっ…!」
もう…ダメ……
「伝令ーーーーーー!!」
黒煙の渦巻く教会に一人の衛兵が飛び込んできた。
「何事だ」
「報告します!プロト村より運送していた牛車が何者かに襲撃されたとのこと!」
「何だと…して、例の"あれ"は?!」
「それが…檻を破壊されたため、脱走したと…」
「なっ……?!」
「教皇様…いかがいたしますか?」
「急いで現場へ向かえ!!なんとしてでも"あれ"を捕獲してここへ連れてこい!!」
「お、仰せのままに…」
アウルが衛兵と共に教会から飛び出していった。この黒煙のせいか、教会外には野次馬達で溢れかえっており、その間を抜けるのに手こずっている。
「襲撃だと…次から次へと私の計画を邪魔しおって…おい!!」
焦っているのか、今まで装っていた余裕が少しずつ無くなり始めていた。
「あぅ…!!」
髪を乱暴に引っ張りあげられ、無理やり身体を起こされる。
「貴様か!?襲撃は貴様の作戦なのか!?」
「うっ…し、知らない…」
「ふざけおって…あと少しなのだぞ!あと少しでこの世界は私の物になるというのに!!」
苛立ちを込め、髪を掴まれながらステンドグラスの下まで投げ飛ばされた。
「ごほっ…ごほっ…!!」
激しい痛みと苦しみで、抑えが効かなくなり、身体から黒いオーラが滲み出てきていた。
「早く…力を出せっ!!」
「た、助けて…」
最後の力を振り絞ったその時、母の耳飾りが強く輝き始めた。
「なんだその青い光は…何をしている…!」
教皇が詰め寄ろうとしたその時だった。
ガッシャーーーーーンッ!!!!
ステンドグラスが割れる音と共に、何かが教会に飛び込んできた。
「あ…」
まるでもう大丈夫と言わんばかりに、その黒い翼を大きく拡げ、教皇の前に立ち塞がってくれている。
キュルルアアアアアアアアアアッ!!!!!!
「ラズリ…!」




