第56話 「再会」
「グスッ…」
夜の闇に包まれ、吹雪が降り積もり、流れる涙が凍えてより一層冷たく感じる。
いつも母が使っていた治療用の薬草である"雪すみれ"が少なくなっていたことに気付いて、採取して喜ばせようと一人では入ってはいけないと言われていた森で帰り道が分からなくなっていた。
「…おかあ…さん……」
さっきまで震えていた手足がゆっくりと離れていくように感覚が無くなっていく。
大きな木の根元に横たわり、少しでも暖を取ろうと身体を丸めるも、容赦なく吹雪が襲いかかってくる。
視界がぼんやりと滲んで、目を開ける事が難しくなってきた。
「フェリスっ!!お願い目を開けて!!」
遠退いていく意識の中で母の声が聞こえたと思うと、強く抱き寄せられ暖かい光に包み込まれるのを感じる。
とても落ち着く…母の温もりを…
「おかあ…さん…?」
ゆっくりと視界を開けると、そこには母の姿。
「あぁ良かった…!」
見たことのない母の慌てる表情…
「どうして一人でこんなところに…!!」
「ごめんなさい…これを採りに来たの…」
「これって…"雪すみれ"…?」
「家にあるのが…少なくなってたから…」
「フェリス…」
きっと怒られる…
喜んでもらいたくて、でも母との約束を破ってしまったのだから…
「あの…ごめんなさ…」
「フェリス、ありがとう」
母はそう言うと、今度は優しく抱き締めてくれた。
「グスッ…ごめ…んなさい…!」
緊張がほどけて涙が溢れるのが止まらない。そんな私を、母はただひたすらに抱き締めて離さなかった。
「帰りましょう」
母は私を背負い、村へと真っ直ぐ歩き始める。
とても落ち着く。
吹雪も止み、月明かりが二人を照らす。
「ねぇお母さん?」
「ん?」
「どうして、私のいる場所が分かったの?」
「え?ん~…」
何かを考えて月を見上げていた母は、静かに笑みを浮かべていた。
「お母さんだからかな?」
「へぇ、お母さんってすごいんだね」
「そう、お母さんってすごいのよね」
「あんな吹雪の中でも私の事見つけられるなんて」
「それは、お母さんはフェリスのことが大好きだから」
「大好きだと、見つけやすくなるの?」
「ん…間違ってはないかな」
母は私を背負い直すと、もう一度月を見上げた。
「フェリスがどこにいても、お母さんは絶対傍にいるからね」
「ここは…」
目が覚めると、何も見えない暗闇の中にいた。
昔の記憶だろうか、夢のような感覚だった。
手足が思うように動かせない。
何か拘束具のような物が付けられているのを感じる。
暗く冷たい空気の中、頭痛に耐えて眼を凝らす。
そうだ、私はアウルの魔法で影に引きずり込まれて…
ここは一体どこなのだろうか…何も見えず、情報が入ってこない。
「ふふっ…お目覚めかい?」
暗闇に反響して不気味に笑う声が聞こえた。
姿は見えないが、近くにいることはわかる。
「黒鱗のドラゴンはどこにいる?」
「ここは…」
すぐ傍で小さな火が灯った。
アウルが魔法で手から火を産み出しているようだった。
「こちらの質問に答えてもらおうか」
ジュッ!!!!
「あッ…!!!!」
突然、肉の焼けるような音と共に右腕に激痛が走った。
魔法の火を強引に押し当てられ、痛みから逃げようにも拘束具が邪魔して逃げる事ができない。
「クッ…ウゥ…!!!」
「早く答えないと、火傷の痕が残っちゃうよ?」
「ハァ…ハァ…や、やめ…!」
アウルは右腕から手が離れると、今度は右肩に手を強く押し付けてくる。
「アアアアァアゥッ!!!!」
今までも同じことをしてきたのだろう、躊躇などない拷問だった。
「ほらほらっ!!」
「い…言わない…!」
「しぶといな、それなら…」
アウルが素早く魔方陣を描くと、辺りの暗闇が一瞬にして晴れる。
頭上には月明かりが透けるステンドグラス。
教会の広間にいたようで、アウルの魔法で影に取り囲まれていた。
だが、それよりも目の前にいた光景を疑ってしまった。
「な、なんで……!」
同じく拘束具を付けられ、床に両膝を着いている。
「感動の再会というやつかな」




