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幸福のフェリス  作者: 海野 咲凛木
第一章 プロト村 幼少期編

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第13話 「ラズリ」


私はただ、この氷檻に閉じ込められたドラゴンを見て黙然としていた。

母から先祖の話を聞いた後、仕事を教わっているときも以前のように威嚇されることは無くなっていた。


ドラゴンは知性ある獣だ。

恐怖心を向けてくる者には決して心を開かないし、慣れることもない。

ましてや初めて見た人間に対してなんて…


じゃあ、どうして…



「どうして貴方は、私に心を開いてくれたの?」



仕事を終えた後、母はまだ厩舎に残ると言っていたので、私はラズリの元へ向かっていた。

昨夜、イリアンの雷電甲虫が教えてくれた道を辿り、雪道を踏み歩いていくとあの大木が見えてきた。


でも、ラズリの姿は見えない。

やっぱりどこかへ行ってしまったのか…


もう一度だけでもいいから会いたかったな…


キュルル…。


「え?」


振り返ると、目の前に黒鱗のドラゴンが座っていた。

「ラ、ラズリ?!きゃっ?!?!」


いつの間にか背後にいたラズリは嬉しそうに飛びかかってきた。

昨夜会ったというのに、まるで久しぶりの再会のように。


「わかった、わかったから!(笑)」

興奮するラズリを落ち着かせ、その黒鱗の額を優しく撫でると喉を鳴らして気持ちよさそうに瞳を閉じていた。


ずっと待っていてくれていたんだ。

名前をつけてしまったけど、まだその力は顕現していない。

つまり、この子の意思でここにいてくれていた。


ただ、嬉しかった。


「傷ももう大丈夫そうだね。」


結局、耳飾りから出ていた青い光のことは聞けていない。

あれも一族の力というものなのか。


「ちょっと、くすぐったいから(笑)」


舌で顔を舐められるが嫌な気はしない。むしろ嬉しいくらいだ。


「ずっと待っててくれたんだね。」


キュルッ!


言葉を理解しているのか、会話が成り立っているように感じる。


「ラズリは、人間が怖くないの?」


だが、返事は無く不思議そうにこちらを見つめていた。

「流石に言葉は話せないか(笑)」


あの大木の穴に向かうと、魚の骨らしいものが散らばっていた。

「魚を食べるんだ…」


てっきり肉が主食かと思ったけど、恐らく近くの川で狩りをしていたのだろう。


そして何やら床に黒い焦げ跡もある。

「ラズリ、これは?」


期待していないが思わず尋ねてしまった。案の定、何も返事はない。

骨を咥え、どうだと言わんばかりに見せつけてきていた。


「いいなぁ、私も食べたいなぁ」

なんて冗談を言いながら額を撫でると嬉しそうにしている。


多分、ラズリはここを離れることはないだろう。確信はしていないがそう感じている。


瑠璃色の瞳が私をしっかりと捉えていた。まるで宝石のような瞳だった。前足の先にはドラゴンを象徴する鋭い爪がしっかりと生えている。でも、この爪で怪我はしていない。


きっとラズリが私に当たらないように意識してくれているのだろう。

まぁ、すごい勢いで飛びついてはくるけど。

翼を覗き込もうと少し顔を傾けると、ラズリも真似して顔を傾ける。

「ちょっと、良く見えないよ(笑)」

真似をするラズリが愛おしくて思わず微笑んでしまう。


このまま観察を続けたいところだったが、

「ごめんねラズリ、今日はもう帰らないと…」

母が自宅に帰ってくるかもしれない。

何かを悟ったのか、ラズリが私の服を咥えて離そうとはしなかった。

「明日、また来るから。約束。」


その瞳を見つめ安心させるように語りかけると、渋々口を離してくれた。

明日も夜なら少しは来れると思う。

ここにきて、少しでもラズリと一緒にいようと心に決めた。


その夜、仕事を終えた母が帰宅してから耳飾りの事もラズリの事も話さず、胸の内にしまって眠りについた。


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