第12話 「五神獣と呪われた一族」
今から数千年前の事、この世界の大陸がまだ一つだった時。
五体の特異な能力を持つ獣が、己の強さを示すために争いを繰り広げていた。
その力は拮抗し、決着はつかずただ時が過ぎていくだけの中、その争いを沈める為に当時の人々はその五体の獣が戦いの最中に落としていった鱗や体毛を集め、その獣の能力を使おうと崇め奉っていた。
すると、ある一人の人間がその力を顕現させることに成功し、その一族の人間に力を分け与えていった。
その者の名は『ノア』。瑠璃色の髪と瞳を持った女性だ。
ノアはこの争いの絶えない世界で、人と獣達が安心して暮らせるようにいつも平和を願っていた。
だが、五神獣同士の争いに巻き込まれ、次々と死に絶えていく命達を見て絶望していた時、とある力が顕現した。
それは、名を与えた獣を使役化する力。
人々が止められなかった五神獣さえもその力で手中に納め、平和をもたらしたという。
そして未来永劫、争いが起きぬよう五神獣達をそれぞれの『器』に封印した。
その後、顕現した力は『魔法』と呼ばれるようになり、力が消えぬよう子孫へと受け継がせていった。
それが『ノアの一族』、この世界で最初に魔法を顕現した一族だ。
ノアが望んだ様に、世界は平和になった。
命が繁栄し、枝分かれするかのように様々な魔法も生まれた。
だが次第に魔法はその力に格差が生まれ、力を誇示するかのごとく争いが生じていった。
気付いてしまったのだ。争いは五神獣のせいではない。
力を追い求めた人間の行く末であったのだと。
人類に絶望したノアは一族と共に五神獣を使役化して人類を絶滅寸前まで追い込んだ。
そして生き残った人々へもう一度やり直すチャンスを与えるため、長い年月をかけて極めた己の魔法を使い、大陸を五つに分断し、人類もそれぞれの大陸に分断させたのだった。
もう争いを起こさない為に五つの大陸に祈りと平和の象徴として五神獣の器を各大陸に置き、崇め奉らせる事にした。
ノアの死後、一族達が後を受け継いで平和の均衡を保ち、数百年の時が過ぎた時だった。
一族の中から、五神獣の力を使って戦争を引き起こそうと企てる反逆者達が現れた。
その強大な力を使って世界を統べようとしたのだ。結局、反逆者達は器を解放して大陸戦争を引き起こしてしまった。
その時代からであろう。
『ノアの一族』の末裔はその戦争を引き起こしたとして呪われた力を持つと言われ、忌み嫌われるようになったのは。
それから、『ノアの一族』は現代に至るまで目立たずひっそりと暮らしてきた。
見つかれば差別の対象となり、罵詈雑言を浴びせられるようになってしまったから。
「だから、お母さんはこの村を訪れるまでずっと旅をしていたの。」
氷檻の前で、ただ話し続けてくれた母の姿が私には辛そうに見えていた。
今まで村の中で呪われていると後ろ指を刺されていた理由がようやく分かった。
それと同時に怒りも込み上げてきた。
「でも、私達が悪いことをしたわけじゃない…」
それは先祖の過ちだ。お母さんたちは何もしていないのに…
「そうね。それでも、分け隔てなく接してくれる人もいた。貴方のお父さんのように。フェリスにもそういう人がいるでしょ?」
「え?」
なんでイリアンの顔が思い浮かんでしまったんだ。
頭から振り払って気になっていた事を聞いてみた。
「私にもその力があるの?その、使役化するっていう…」
名を与えた獣を使役化する力。
もしその力があるというのなら、私はラズリを縛り付けてしまったということに…
「フェリスからその力はまだ感じないわ。まだ顕現していないと思うけど」
「そっか…」
ホッとした。私はそんな力で獣たちを操ったりしたくない。
でも、いつかその力が顕現してしまった時、私は一体どうするのだろうか。
「そういえば、村長がケガワウシに名前をつけてはいけないって言ってたのは…村長は知ってたの?」
「村長にはお母さんがこの村に残ると決まった時に全て話しているわ。でも力のことを知っているのは村長だけ。皆に話せばきっとパニックになるだろうからっって。」
村長は全てを知ったうえでお母さんを受け入れてくれたんだ。
差別や罵詈雑言を浴びせる人もいれば、お父さんや村長、イリアンのように何も気にせず受けいれてくれる人もいる。
人間という生物が私には良く分からなくなった。
ケガワウシやラズリのように、この世界にいる獣の方がよっぽど純粋だ。
人間はこの世界に必要な生物なのか、不安を覚えた。




