111話 「イリアン」
雪の降り積もる中、寒空の下で今日も彼は私を待っていた。
「なんでいるの」
「別に」
温かくなった私とは反対に、彼の身体は冷えきっていた。
「毎回私の事なんか待たなくてもいいよ、風邪ひくよ?」
「俺風邪引かないから」
「…そう」
彼は視線を合わせず言葉を続けていた。
それでも、私が足を進めると隣に並んで歩き始める。
「なぁフェリス」
「なに?」
「今日、じいちゃんとオオツメドリの狩猟に行ったんだけどさ、1羽やるよ」
「オオツメドリって…何か祝い事とかでしか食べないんじゃ…」
「俺の初狩猟の祝いだよ」
「なにそれ」
その後も彼は特に中身の無い話を延々と続けていた。ただ相槌を打っているだけだけど、別に悪い気はしていない。
何を話しても楽しそうにしている彼を見ていると、こちらまでどこか楽しくなっていたから。
「腕、大丈夫なのか?」
「え、あぁこれは…」
自分の腕を見ると痛々しいアザで溢れていた。
「大丈夫だよ、まだまだ練習しないと…」
「ラズリに取り付けた鞍のサイズ合っていなかったか?」
「ラズリが大きくなっちゃって、少し鞍が小さくなってるかも…それにまだ私とラズリの息が合わない事があって…」
「ラズリと出会ってもう2年くらいか…」
「うん、最初は上手く一緒に翔べていたんだけど、最近は全くで…」
ここ最近、上空まで行くとラズリが言うことを聞かずに勝手に進路を決めて飛翔してしまう事がある…どうすれば言うことを聞いてくれるのやら…
「うーん…別に言うことを聞かせなくてもいいんじゃないか?」
「え?」
「最初の頃はラズリの翔びたいがままにしていたんだろ?今は言うことを聞かせようとしてラズリを縛り付けている気がするが…」
「あ…」
「まぁ、また鞍の調整も兼ねて一緒に会いに行こうぜ」
「うん…そうだね…」
彼は適当なようでいて的確だ。
だから信頼しているし、良き相談相手だった。
「俺もさ、雷電甲虫の扱い方で分からないときもあったけど、そういう時はもうコイツらの好きにさせてる」
ラズリを縛るつもりなんて無かった。あの氷檻に閉じ込められているドラゴンのようにはしたくなかったけど、そうなってしまっていたのかも…
「私…」
「泣くなよ」
「だって…」
「そんなつもりじゃなかったんだろ?」
「うん…」
「ラズリも分かってるはずさ、フェリスにそんなつもりは無かった事くらい」
頭を撫でてきた彼の手はひんやりと冷たく、それでいて暖かった。




