110話 「蛍火」
蛍火の里と呼ばれている理由は村に入れば一目瞭然だった。
「うわぁ、綺麗…」
村一面が蛍で溢れていたのだ。
外から見えたのは蛍の放つ灯りだったようだ。
「灯火蛍っていう希少種さ。この村周辺には綺麗な水が流れていて貴重な生息地になっているんだが、昔に比べたらやはり数は減っているな」
「え、これで減っているんですか?」
視界一面に蛍の放つ淡い緑の光で溢れているのに…
「渡航制限前はここら辺も開拓が進んでいたからねぇ、環境汚染ってやつだね」
ラズリも浮遊する蛍火に興味津々のようだ。
顔の真横まで接近してくる灯火蛍に眼を奪われるが、もしかしたらこの景色が見れなくなるのもそう遠くないのかもと頭によぎる。
「まずは宿を探すとしようか、この村には温泉もあるし身体を休めよう」
「温泉?!」
「ここは蛍火に囲まれながら温泉に浸かれるんだ、いい景色だぞ」
「あ、でも…依頼主を探さないと…」
「僕が探しておくから、二人は宿を探して先に休んでいてよ」
「いいんですか…?」
「依頼主本人がまだいるとは限らないから見つかるかは分からないけど、情報を集めるのは得意だからね、それに分担して休める時に休んでおいた方がいいよ」
「気が利くじゃないか、なら先に休ませてもらうよ」
「じゃあ、エナさんよろしくお願いします。」
「はーい」
二人が村の中へ入っていくのを見ると、エナンジは歩いてきた道に視線を向けた。
「さてと…」
「ふぁ~…気持ちいい…」
茶色く濁る源泉掛け流しに身体を溶かし入れると、思わず声が出てしまった。
「フェリスは相変わらず気持ち良さそうに湯に浸かるね」
湯煙の中を蛍が舞い、身体だけではなく視界からも癒されていく。
「ちびちゃん、あんまりはしゃぐと溺れるぞ」
ぷかぷかと浮きながら頭上を舞っている蛍にラズリはその小さな前足を頑張って伸ばしていた。
「そういえば、前にこの村に来たことがあったんですか?」
「ん?」
「まぁな、昔旅をしていたときにここを訪れたことがあった」
「だから温泉の事とか蛍の事を知っていたんですね」
「あぁ、フェリス私からも質問してもいいかい?」
「はい?」
「『イリアン』っていうのはフェリスにとってどんな存在なんだ?」
「え?」
「探しているってことは余程の存在だと思うが?」
「イリアンは私のいた故郷の幼なじみで…」
どういう存在かと言われると難しい…
うまく言葉に表せないけど…
「イリアンは不器用だけど優しい人で…」
村にいた時の記憶を辿り、私はゆっくりとシルフさんに語った。




