109話 「襲撃」
エルーチェの森を出発した私達は街路を抜けてから半日程歩き、リュシオ村付近まで来ていた。
その後追っ手の姿は見当たらなかったが、他の問題が出たことはこの後話そう。
目的のリュシオ村へ向かっている間にいくつか村を見かけたが、疑問が残っていた。
「このセレニス大陸の北西部は渡航を制限されているはずなのに、まだ人のいる村があるんですね」
「元々そこで暮らしていた村民達が故郷を離れる事はできないと言って残っているからな」
「なるほど…」
「でも貧しい暮らしをしているだろうね、今は流通網が無くなりかけて物資も充分とはいえない状況だろうし」
まだ渡航制限前は商人が定期的に各地の村を訪れていたらしいが、今ではこの北西部を武装せず歩いていると…
「きたぞ、構えろ」
シルフさんの視線の先に大柄で傷だらけの熊が現れた。
「やれやれ…さっきから色んなのに遭遇するね…」
エルーチェの森を後にしてから、何度も大型の獣の強襲に合っていたのだ。
これが北西部の渡航制限をしている理由と言ってもいいだろう。近年野生の獣による襲撃が相次ぎ、渡航する際は実力者がいなければ途中で力尽きるからだ。
そうこう言っているうちに目の前の熊は牙を剥き襲いかかってきた。
「ここは僕がやるよ、シルフさんは休んでて?」
「一人で大丈夫なんだろうな?」
エナンジが木槌を取り出し、大きく振りかぶる。
飛びかかってきた熊目掛けてその木槌を振り下ろし地面に叩きつけると、怯んだ熊は尻尾を巻いて逃げていった。
「あれ、あの一撃でまだ動けるんだ…」
「どうするんだ、倒しておかないとまた襲ってくるかもしれんぞ」
「それは大丈夫だと思います。あの熊はおそらく『グリズラード』という種ですが、学習能力が高いので自身より強い相手にはもう攻撃はしないはず…ですが気になることが…」
「どうした?」
「既に全身が傷だらけだったことです。外部からの攻撃による怪我だと思いますが、強敵からはすぐに逃げる習性なのにあそこまで傷を受けているのはおかしいです…」
「確かにね、やっぱり生態系異常が原因なのかな」
「この辺りにも起きているんですか?」
「いくつか受けた報告を聞いている感じだとあると思うよ、この辺り一帯の獣達を凌駕する何かがいるとか…」
「何かってなんだ?」
「それが分からないんだよね、基本的に外部からの獣の介入は聞いてないし…」
ということは同じ種の中で強い個体が生まれた…
いや、思い当たる事は…
「人造種……」
「フェリスちゃん何か言った?」
「いえ、なんでも…村はまだ着かないですかね?」
「そろそろ見えてくる頃だが…おぉ、噂をすればなんとやらだ」
シルフさんの指差す先に集落が見えてきた。
夕暮れも終わり、暗くなる中その集落からは優しい光が漏れている。
「蛍火の里、『リュシオ村』だ」




