第108話 「寂寥」
一瞬だった。
瞬きの間にこの森は屈強な兵士達を木のつるで絡み付け、完全に身動きを封じ込めたのだ。
「ね、僕らの出る幕じゃなかった。少なくとも自らが生み出した領域においてそのエルフに勝てる者はいないよ」
「あんなにも小さな女の子なのに…」
「小さくてもエルフはエルフ、もしエルーチェが大人でもっと高魔力だったら、僕らごとこの森一帯に飲み込まれていただろうね」
「エナンジ、エルフは確かセレニス大陸から遥か西にある『フロレスト大陸』にいる民族のはずだよな?」
「うん、元々エルフ族が暮らしていたはずだけど、今じゃ大半がさっき話したハイエルフ族が締めて暮らしている大陸だね」
「ということはローエルフのエルーチェはその大陸から迫害された…とか?」
「いやいや、流石に考えすぎだよ」
「まぁ、エルーチェはここへの転移前の事は詳しく覚えていなさそうだし、もう追っ手の心配も無いだろう。森を出て『リュシオ村』へ向かおうか」
「え?彼女、ここに置いていくんですか…?」
「大丈夫だフェリス、エルフは一人でも生きていく事はできる。それにどれほど強いかも見ただろう」
「でも…」
先ほどの雰囲気とは打って変わり、無邪気にラズリと遊んでいるエルーチェを見てエルフだとしても私には小さな女の子にしか見えなかった。
「私達には目的がある、そうだろう?」
「分かりました…少しだけ待ってもらってもいいですか?」
私はラズリと遊んでいるエルーチェの元へ向かった。
「エルーチェ?」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「私達、そろそろ行かなくちゃいけないの」
「え、もう行っちゃうの…?もっと遊びたいのに…」
「ごめんね」
「じゃあさ、また遊んでくれる?」
「うん、もちろん!」
「じゃあさじゃあさ、これあげる!」
そう言って手渡してくれたのは小さな木の実だった。
「これは?」
「その中に御守りを入れてあるの!お姉ちゃん達をきっと守ってくれるよ!」
「ありがとうエルーチェ、大事にするね」
もらった木の実を懐にしまうと、ラズリが私の肩に飛び乗ってきた。
「またね!お姉ちゃん!」
大きく手を振っているエルーチェに向けて、私も精一杯手を振り返す。
「フェリスちゃんは子どもが好きなんだね」
「そうですね、今まで私より年下の子と接する事も無かったですし、私がエルーチェくらいの時は母や幼なじみが傍にいてくれたので寂しくは無かったし…だから、エルフだとしてもやっぱり…」
振り返ると、まだ小さく見えるエルーチェは手を振っていた。
足を止め、もう一度大きく手を振り返すとその場で跳び跳ねてさらに大きく手を振り返してくれた。
静まり返ったあたしの森の中。
風のそよぐ音と小さな獣達の鳴き声だけが聴こえてくる。
「やっぱり…独りはさみしいな……」




