2話
「おう、今降ろしてやるから絶対に吐くなよ。いいか、絶対だぞ」
やべっ、ユウに掛けてた魔法を止めるの忘れてた。慌ててユウに視線を向けると、奴は真っ青な顔で口元を抑えていた。
うわっ、今にも吐きそうだな。ここで吐かれたら大惨事だぞ!
そう思ったのは僕だけでは無かったようで、クラスメイト達は宙に浮かぶユウから露骨に距離を取り始めた。
「え、振り? 吐いていい感じー?」
僕は魔法を止め、床に叩きつけたくなるのを我慢してゆっくりとユウを降ろした。
ああ、疲れた。精密な操作をするのは苦手だ。
「お疲れ様、真理君。はい、お水だよ」
駆け寄って来てくれた夜々は優しい言葉とともに艶めかな指を突き出す。
「ありがとう、夜々」
礼を言って僕は彼女の指を咥える。その途端、夜々の美しい指から甘くて美味しい水が発せられた。
彼女が魔法で作った天然水顔負けの良質な水で、僕だけが飲める愛情の籠った水だ。
「わぁお、十八禁すれすれだねーキミたち」
いつの間にか復活していたユウに言われて辺りを見回す。男子は生唾を飲んで、女子は目を輝かせて、こちらを見ていた。別に見せ付けるつもりは無かったんだが、キスの時よりも盛り上がっている。これってそんなに恥ずかしいものなの?
「ふぇっ、恥ずかしいよ」
視線に気づいた夜々も顔を紅潮させてモジモジしている。照れる夜々も可愛いな。早く学校終わらないかな。
夜々の可愛さに当てられたせいか、僕も顔が熱くなるのを感じた。うっ、この話題は危険だ。
「そう言えば、ユウ。お前さっき何か言おうとしてなかったか?」
「ん? ああ、その件ね。今朝職員室を通りかかった時にたまたま聞いちゃったんだけどさ。近々このクラスに転校生が来るらしいよ。どんな子か気にならない?」
話題替えは成功したようで、クラスメイト達の興味は新しくやって来るという転校生へと移っていく。話題が変わったお陰で、僕の顔に籠っていた熱も引いてくれた。夜々の方を見れば、彼女は清純さの中に香り立つ色気を隠した微笑みを返してくれた。どうやら、いつも通りの夜々に戻ってしまったみたいだ。これはこれで有りなんだけど、もっと恥ずかしがる夜々を見ていたかったなあ。
しかし、この時期に転校生か。今は中学三年生の二学期だぞ。よくこんな時期に転校するよな。クラスメイト達が転校生が男か女か、もっと言えばイケメンか美少女かで盛り上がっている中、僕はそんなことを考えていた。僕には夜々が居るし、幾ら転校生が可愛くても関係ないしな。
「ねえ、真理君。転校生が私より美人でも私を好きでいてくれる?」
不安になったのか夜々は目を潤ませて僕を見上げてくる。なんて反則的な可愛さなんだ! あぁ、ここが学校で無ければ今すぐ愛し合えるのに!
「ああ、何が有っても変わらないよ。僕が愛してるのは君だ。他の女なんて目に入らないよ!」
僕はこの思いが伝わるように夜々の躰に腕を回した。僕の返事に満足したのか、彼女も僕に身を委ねてくれる。
……もうこれ持ち帰っても良いかな?
「よっ、真理。また朧月さんとイチャイチャか?」
夜々の可愛さに身悶えしていると背後からそんな揶揄いの言葉が聞こえてきた。とはいえ彼は薄っぺらなユウとは違って友好を込めて言っているのだろう。小学校時代からの付き合いだし、親しみを込めて僕も軽口を許している。振り返って声の主を確認してみると、やっぱり僕の予想通りの人物だった。
「おはよう、錬。今日も妹さんのお見舞いに行ってたのか?」
彼の名は剣之偽錬、陽気で快活な上にスポーツ万能なイケメン野郎だ。適性も強化魔法6と高く将来有望なので、多くの女子から狙われている。何なら今もギラギラした視線が錬に向けられているぐらいだ。
「ああ、その通りだ。優依花は俺の大切な妹だからな」
だが、本人は病弱な妹を最優先に生きているため、面倒臭い恋人を作る気は全く無いらしい。
まっ、恋愛に必要なのは愛だからな。錬も夜々みたいな素晴らしい女性に出会えば、考え方も変わるだろう。そう思いながら、僕は最愛の人を抱き寄せた。
彼女は他の女性とは違って特権の絡みついた適性の高さではなく、僕自身を好きだと言ってくれている。やっぱり適性の高い女性は外見だけでなく内面まで美しいんだ!
夜々と付き合うまで錬と同じ立場だった僕としてはそう思わずにはいられなかった。




