表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1話

 昔、とある作家が今までにない異能力バトル小説を書いて世に出しました。

 その作品は世界中で大ヒットし、天使を通してシンカイに住まう女神様まで購読するほどだった。

 すっかりその作品の虜に成ってしまった女神様は作者の元に思念体を送り、褒美として作品のような世界にしてやると提案しました。もちろん、作者には特典として好きな能力を与えるという破格の条件を付け加えて。

 しかし、作者はその申し出を断ってしまいました。現実の人々に異能なんて与えたら、生まれつきの能力だけで優劣を決めるようになってしまい、誰も努力しなくなってしまうと考えたからです。知恵を振り絞って、運命に抗う瞬間が大好きな作者はそれが嫌だったので、女神さまを説得して止めようとしました。

 けれども、人間を下に見ている女神様は作家の意見を取り入れずに世界を書き換えてしまいました。

 こうして、世界は異能で溢れたのです。



 この都市伝説が正しいのかどうかは知らないけど、人類は三百年前から魔法が使えるようになった。魔法には生まれつきの適性が有り、適性の低い魔法はほとんど使えない。逆に適性さえ高ければ、幾らでもその魔法を使うことが出来る。

 だから、社会に生まれ落ちた時点で既に優劣の選別は終わっていて、結果が不服ならば自殺という名のリセットボタンを押すしかない。

 それでも女の場合はまだマシだ。男に比べて優劣の差が小さいので、適性の低い子でも軽いイジメに合う程度で済む。男の場合は適性が低いとまず親に育ててもらえない。孤児院に捨てられ、単純な肉体労働で一生を終えることになる。これが魔法格差社会の現実だ。

 かくして世界は地獄と化し、人は自らで輝く力を失った。

「真理、聞いてるの? 適性で人を見下したらダメって母さん何回も言ったよね!」

 まあ、僕こと智秋ともあき真理しんりには全く無縁の話だ。何故なら僕は十段階評価の魔法適性において、風魔法7を持っている。適性7以上の持ち主は地球上に千人もいないと言えばこの凄さも分かるだろう。当然学校の中でも一番適性が高く、スクールカーストの頂点に君臨している。

「はあ、母さん、この世は全て魔法適性で決まるんだよ? 綺麗事は止めてくれ」

 しかし、母さんはそんな現実を決して認めようとはしない。魔法省のエリート官僚である親父に身体で取り入っただけの無能力者が調子に乗っているのだ。別に母さんのことは嫌いではないが、もっと身の程を弁えて欲しい。

「ねえ、何度も言ったよね? 人は適性に関係なく、輝く力を持っているって。そんな事ばっかり言ってるとそのうち痛い目に遭うよ! もっと、魔法適性ではなく人の内面を……」

 母さんは美しい顔を般若にしてクドクド騒ぐ。愚かなクラスメイト達は母さんを見ると羨ましいというが、今だに二十代前半で通じそうな見た目に騙されているだけだ。それにその見た目だって親父の金をふんだんに使って毎日のように高級エステに通っているから維持できているだけに過ぎない。

「はいはい、学校行ってきます」

 僕は母さんの話を遮って家を出た。平日の朝から若作りババアの妄言になんて付き合っていられない。選ばれし者である僕は色々と忙しいのだ。

 ……はあ、こんな世間知らずが母親で本当に恥ずかしいよ。




「おはよう、何だか顔色が悪いね。何かあったの?」

 教室に入ると恋人の朧月おぼろづき夜々(よよ)が心配そうな顔で近寄ってきた。夜々は艶やかな黒髪をポニーテールに括り、あどけない瞳と瑞々しい唇が魅力的な女の子だ。

 適性も水魔法5と女子の中では一番高く、その美貌と合わさって学園のアイドルとして皆から好かれている。

「いや、大したことじゃない。むしろこんなに可愛い彼女に心配しても幸せなくらいだよ」

「もう、真理君ったら……好き!」

 僕の言葉に感極まったのか夜々が抱き着いてきた。同世代に比べて発育の良い胸と女の子特有の甘い香りが僕の理性を襲う。クラスの男どもは妬みの籠った視線を僕に向けてくるが、一瞥すると皆視線をそらした。これは僕の女だ、適性の無いザコ共は指でもくわえて黙ってろ。

 突き抜けるような優越感とともに、僕は夜々の頬に手を添える。……そして、唇を重ねた。

「流石はロイヤルカップル、シンリちゃんもヨヨちゃんも熱いねー。熱すぎて見ているこっちが火傷しそうだよ」

 そんな僕らを堂々と囃し立てたのは、腰ぎんちゃくの狐借こがりゆうだ。僕と彼女の時間に口を挟んだのが他のザコ共なら魔法で吹っ飛ばすところだが、薄っぺらなユウの言葉にいちいち反応するのは馬鹿を露呈するようなもの。少なくともこの学校ではそういう認識になっているので手出しする訳にはいかない。

「揶揄うなよ、ユウ。それとも何か用か?」

 僕は名残惜しくも夜々とのキスを中断する。ユウはふざけた奴だが、立場の分からない愚か者じゃない。

 きっと何か伝えたいことが有るから来たのだろう。だったら、この学園の王として聞いてやる必要がある。

「鋭いね、シンリちゃん。大切な情報を掴んだんだけど、聞きたい?」

「勿体ぶるな。とっとと話せ」

 無駄だとは分かっていても苛立ちを覚えてしまう。僕の怒りが伝播して周囲のザコ共は恐怖を浮かべているが、案の定ユウは飄々としている。闇魔法3と魔法適性は凡庸な癖にどこまでも食えない奴だ。

 とはいえこんな奴に何時までも怒ったって仕方ない。夜々の手前もあるし、ここは笑って許すことで器の大きさを示す方が賢明だ。

 そう思い、皆を安心させようと優しい笑みを浮かべてみる。幸せを呼ぶエンジェルスマイルだ。

「……あれれー、シンリちゃん。本気で怒ってる?」

「ひぃーーー!!」

 すると、外野だけでなくユウにまで怯えられた。……皆を安心させようと思って浮かべた笑顔を愚弄するとは良い度胸だな。

 良心を傷つけられた僕は、ユウを風魔法で宙に浮かせて乱回転させる。他の連中はともかく、ユウの奴は確信犯だ。分かってておちょくってやがる。

「あばばば、タイムショック!?」

 刑を執行しながら、僕は夜々の方を見た。内心では彼女も僕のことを怖がっているのだろうか? クラスメイトたちの反応を見ていると段々不安になってくる。

「心配しないで真理君、私だけは真理君の味方だよ?」

 僕の視線に気づくと夜々はそう言って笑った。

 そうだ、一途で優しい僕の彼女がそんな事を思うはずがない。

「夜々!」

「あっ、真理君……」

 彼女の言葉にグッときた僕は彼女を抱き寄せ……再び唇を重ねた。

 僕は夜々を愛している。彼女以外の娘なんて考えられないぐらいだ。

 高い魔法適性のお陰で僕の将来は安泰だし、大人になったら結婚して幸せにしてやるんだ。




「二人の世界に入るのは良いんだけどさー。……これ止めてくんない? マジで吐きそう」

 魔法でグルグル回り続けるユウは顔を青くして、白旗を振っていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ