結婚する気があんの?
「私は由樹さんが人の痛みを共感できる優しさが、とても好きです。これまでも、私が苦しいとき、辛いとき、ただ見守ってくれるだけではなくて、ずっと側にいて助けてくれていました。
ずっと側にいてほしい、そう思っています」
オレはみのりさんに尋ねられ、答えた。これまで何回も悩みながら、自問自答してきたことだ。今さら誰に尋ねられたって、迷うことなく余裕で言えるぜ。
え?背中をつたう滝のような汗?
それとこれとは別問題だよ!
みのりさんはさっきまでの酔っぱらいの赤ら顔とは変わり、まっすぐオレを見ている。シラフに戻ったみたいだ。
「…じゃあ、うちの娘と結婚をされるおつもりですか?」
いきなりの直球をおもいっきり、ずどーん!と腹にくらった。
「それは由樹さんの想いもありますが、私は今すぐにでも結婚したいと思っています」
「それは認めません!あなたはその歳ですからいいかもしれませんけど、うちの娘はまだ20歳になったばかりですよ。早すぎます」
なにげにオレのハートを袈裟斬りでぶったぎられたような気がするのだが。
「早すぎることはないわ!お母さんは私を21歳で生んで、ちゃんと育ててくれたじゃない」
由樹がみのりさんの方をまっすぐ向き直って言う。
「と、とにかく仕事で一人前になるのが先でしょ!」
「二海さん、私は由樹さんの上司としても、社会人としての彼女を認めています。とても優秀です。ぜひわが社も、社会人としての由樹さんも機会があれば一度見ていただきたいと思うんです」
「それは…ぜひ見せていただきたいです」
みのりさんがまっすぐオレの目を見て言う。
「年始にわが社の新春賀詞交歓会が行われます。そちらにぜひ…」
私が言いかけると、
「和弘さん、ですがあの会は会員の企業家の方限定なのでは…」
「由樹、それの心配はいらないわ」
みのりさんが首を横にふる。
「私の勤めてる医院の院長先生に㈱ネクスト経営の会員として入会していただきましょう」
「あの先生、最近私の手をすりすりしながら『キミの言うことならなんでも聞くよ、何かほしいものはないかい?』なんて聞いてくるのよ?いちおう上司だから、笑ってごまかしてるけどね。キモいわ。だけど、ようやくそのカードを使うときがきたわ!」
みのりさんは片頬をつりあげて、ニヤリとする。
由樹そっくりな顔で、不敵な笑み。怖いわ~。未来が少不安になってきたわあ…。怖いわ~。
「ちょうどいいわ!あのいい加減な経営にはイライラしてたとこだから、この機会にあの院長を叩き直してもらいましょうか」
「それなら経営改善セミナーがおすすめよ!個人指導もやってるし!」
どうやらウチの仕事に対しては一定の信頼を寄せてくれているようだ。
そして、由樹がのっかる。って、え?
「そうね、それなら経営支援部長さんの手腕が試されるわね!」
「きっと期待に応えられるはずよ!」
あれ?この流れ…。プレッシャーか!?
真樹ちゃんがぼそぼそ…っとつぶやく。
「見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを」
!!!こいつ、やるっ!!
とまあ、プレッシャーをムダに背負わされたオレであった。
オレはそのまま二海家で食事をごちそうになり、さんざん飲まされて、へべれけになって、這うようにして帰宅したのだった。
後日晴れて?みのりさんが看護師として勤務する、万福寺診療所の万福寺院長は㈱ネクスト経営にご入会いただいた。
みのりさんは最後に
「会いたい人もいるしね」
と言っていた。誰なんだろう。
不純な動機であったが、院長は経営分析と経営改善プログラムでさっそく半泣きになっている。少し憐れみを感じつつもこ『れもオレ達の明るい将来のため!とビシバシと指導にチカラが入るのであったが、それはまた別のお話であった。




